『恋するムービー』『コーヒープリンス1号店』『蝶の眠り』 キム・ジェウクの圧倒的な存在感
キム・ジェウクが、慈愛に満ちた眼差しで11歳年下の弟コ・ギョム(チェ・ウシク)と人生を歩む、コ・ジュン役を演じている『恋するムービー』が話題を呼んでいる。実際には兄がいるため、弟の立場であるキム・ジェウクだが、同作では弟のために生き切る兄として、深い愛情と空虚さを併せ持つジュン役をまっとうした。お互いが精神的支柱である兄弟の絆に心を打たれるばかりか、キム・ジェウクのこれまでにはない役どころは鮮烈な印象を残した。
そんな新しい顔を見せたキム・ジェウクが、現在に至るまでにどのように確立されていったのか、ドラマを中心に紐解いてみよう。1983年4月2日生まれの今年42歳。さまざまな作品で流暢な日本語を話す姿が確認できるが、それもそのはず、新聞記者特派員の父親の転勤に伴って、生後間もなく来日。最初に習った言語が日本語で7歳まで日本で育ったのちに韓国へ戻り、小学生から韓国語を覚えたという、日本には馴染みの深い俳優である。
183cmの高身長と深みのある涼しげな瞳で、現在は知的でいながら大人の色気を存分に醸し出している、キム・ジェウク。中学時代はアイルランドに語学留学し、高校時代にモデルとしてスカウトされ、活躍する。高校時代からバンド活動をしていて、ソウル芸術大学実用音楽科へ進学し、大学時代の友人たちと、ビートルズの曲にちなんで付けたモダンロックバンド・Warlus(ウォーラス)を結成し、ボーカルとギターを担当している(俳優業のかたわらバンド活動も行っていたが、現在は休止中のようだ)。
そんななか、2002年にドラマ『勝手にしやがれ』で俳優デビューを果たす。音楽好きなキム・ジェウクは俳優業に関心はなかったが、バンドのメンバーの役となるためそのままでいいという監督からのオファーだったため、出演を決断したという。劇中では、主演のイ・ナヨンが組んでいるバンドのベーシスト役に扮しているが、現在のようにスタイリッシュな印象はまったくなく、まだ少年らしさが残る粗削りなキム・ジェウクが新鮮。同作には今、同じ事務所となったコン・ヒョジンも出演しているが、最新作『星がウワサするから』では40代でも十分若々しいとはいえ、『勝手にしやがれ』の20代前半の彼女は初々しくキュートだ。
キム・ジェウクはこのデビュー作で俳優に向かないと感じ、学業に専念。しかし、大学を卒業後、自然と演技について意識が向き、俳優の道を志すこととなる。そしてオーディションを受けて合格したのが、2007年の『コーヒープリンス1号店』だ。主演のコン・ユ演じる御曹司が経営する、イケメンしか雇わないカフェの店員で“ワッフルソンギ”と親しまれたノ・ソンギ役を演じ、一躍脚光を浴びる。時折日本語でつぶやく長髪でクールなソンギは目を引く存在だった(のちに、コン・ユや前述のコン・ヒョジン、2017年に『愛の温度』で共演したソ・ヒョンジンらが所属する事務所、マネジメントSOOPに移籍した。チェ・ウシクも以前は同事務所に在籍していた縁もある)。
以降、俳優業に精力的に取り組むようになり、2010年に出演したキム・ナムギル主演の日韓共同制作ドラマ『赤と黒』では、主人公と因縁のあるホン・テソン役を務め、孤独を抱える御曹司役を好演。その後、キム・ジェウクの意外な顔が開花した作品として、2017年の『ボイス〜112の奇跡〜』(同作は唐沢寿明主演で日本でもリメイクされた)は外せない。残虐な殺人を繰り返すモ・テグ役を演じ、鳥肌が立つほどの悪役ぶりを見せつけ、多くの視聴者を恐怖のどん底に突き落とした。