『バニラな毎日』になぜ癒やされるのか 現代人に必要な“サードプレイス”の重要性

 白井と佐渡谷のお菓子教室に訪れた人々は、お菓子作りを通して自分と向き合う。お菓子を作っている最中に、それぞれの抱えている悩みと対峙することになる彼ら彼女らの心象風景が、演劇やダンスを思わせる表現方法で具現化される。その中でも繰り返し描かれたのは、すれ違う母と子の関係だ。

 第3週の優美(伊藤修子)が抱く亡くなった母(宮田圭子)に対する罪悪感。気づいたら母(中島ひろ子)の愛が重荷になっていた第4週の結杏(和合由依)。そして、白井自身が抱えている母(30代の母を谷村美月が演じ、現在の母を筒井真理子が演じる)に対する思い。ホットケーキを巡る、幼い頃の悲しい記憶を反芻していた白井は、幼い頃の白井(小林咲花)が、佐渡谷に手作りホットケーキを「完璧やん」と褒められている姿を幻視する。そのことから、佐渡谷が、彼女がずっと求めてきた「こうあってほしかった」理想の母親像に近い存在であり、白井が心から佐渡谷のことを慕い始めているということがわかる。

 そして、白井の今を全肯定し、おおらかな優しさで包み込む佐渡谷の愛は、孤独だった幼い頃の白井を救うという奇跡まで起こしてしまう。とはいえ、「今度、佐渡谷さんに作っていいですか」と聞く白井に対して「でもな、それはやっぱりお母さんに食べてもらったら?」と佐渡谷が返すように、佐渡谷でも本当の母親の代わりは務まらないのだということを描いてもいた。

 パティスリーの復活という、理想とした現実の中を幸せそうに過ごす白井の笑顔は弾けんばかりで、これ以上ない完璧な状態を具現化したかのような第6週は、思わぬ悲劇で幕を閉じた。ようやく動き出した彼女の人生がこうもあっけなく阻まれていいものかと憤らずにはいられないが、少し前まで孤独だった彼女の傍には、静がいて、佐渡谷がいる。彼女たちのお菓子教室に救われた生徒たちがいる。そしてついに筒井真理子演じる現在の母と対峙する時がやってきたようだ。お菓子と向き合うことを通して、自分自身と、そして「母」と向き合ってきたドラマ『バニラな毎日』の真髄が描かれそうである。

■放送情報
夜ドラ『バニラな毎日』
NHK総合にて、毎週月曜から木曜22:45〜23:00放送【全32回】
出演:蓮佛美沙子、木戸大聖、土居志央梨、伊藤修子、和合由依、中島ひろ子、谷村美月、筒井真理子、永作博美ほか
原作:賀十つばさ『バニラな毎日』『バニラなバカンス』
脚本:倉光泰子
音楽:jizue
主題歌:SUPER BEAVER「涙の正体」
制作統括:熊野律時
プロデューサー:二見大輔
演出:一木正恵、安達もじり、押田友太、影浦安希子
写真提供=NHK

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