『御上先生』松坂桃李が引く考えるための“補助線” 資本主義に託した希望と絶望
冬木が語ったのはリーマンショックによる世界的な金融恐慌で、それを冬木は後追いで知った。投資銀行に所属していた父の後悔を知り、人を幸せにする金融商品を作りたいと考えた。それを聞いた宮澤は、自分たちの利益だけではない、理想の金融商品を作りたいと決意する。同世代が一同に会して思いをぶつけあうことで起きる化学反応。あらためて学校という場所が秘める可能性を実感した。
冬木たちがたどり着いた案は社会貢献事業を金融商品にすること。現実でもソーシャルボンドやSDGs融資があるが、地域密着の事業に資金が流入することで福祉や環境分野を活性化できる。夢物語とみる向きもあるかもしれないが、人権や多様性を理解したいまの高校生なら、こうしたアイデアを生み出すことは決して不思議ではない。
ビジコンの審査員である中岡(林泰文)が隣徳学院の優勝に一枚噛んでいそうだ。忖度枠を押しのけて決断させるだけの説得力が3年2組の発表にはあった。“闇の仲人”と呼ばれる中岡にとって、御上に貸しを作るメリットがあったと思われる。御上が霞が関に復帰する際に、この関係はどう作用するだろうか。
『御上先生』はいくつかの並行するシークエンスで構成されている。その一つが弓弦(堀田真由)とのやり取りだ。これには母親の冴島(常盤貴子)のエピソードも含まれ、謎の青年(高橋恭平)も関係しそうだ。御上を同伴して面会に来た神崎(奥平大兼)は、弓弦の前で殺された渋谷友介(沢村玲)の母の手紙を読み上げる。
息子の命を奪った相手を憎みながらも、相手の境遇を知ったことで想像せずにいられない。家庭内の問題が示唆され、振り絞って出てきた言葉が「あなたが殺した人の背中にはタバコの火傷の跡があるのよ」だった。同じ痛みを抱えた者同士が殺し合い、憎み合わなければならない不条理をえぐり出す一言だった。
罪を自覚した神崎は対等な立場から弓弦に呼びかける。御上の言葉を聞いて発した「本当に悪いやつはここにもいない」。私たちは何に対して戦っているのか。第5話ではビジコンの挑戦を通して資本主義に希望を見出した。一方で、ピザを初めて食べたテロリストの少年は経済システムがもたらす悲劇である。弓弦の事件も社会の諸相が反映されており、つまるところそれが「Personal is political」といえる。なお御上が言及した映画は『ホテル・ムンバイ』で、2008年にムンバイで起きた同時多発テロから着想を得ている。
「日本の教育を変えてやろう」という熱意を持ったエリート文科省官僚が高校教師となり、令和の18歳とともに、日本教育にはびこる権力争いや思惑へ立ち向かうオリジナル学園ドラマ。
■放送情報
日曜劇場『御上先生』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:松坂桃李、奥平大兼、蒔田彩珠、窪塚愛流、吉柳咲良、豊田裕大、上坂樹里、髙石あかり、八村倫太郎、山下幸輝、夏生大湖、影山優佳、永瀬莉子、森愁斗、安斉星来、矢吹奈子、今井柊斗、真弓孟之、西本まりん、花岡すみれ、野内まる、山田健人、渡辺色、青山凌大、藤本一輝、唐木俊輔、大塚萌香、鈴川紗由、芹澤雛梨、白倉碧空、吉岡里帆、迫田孝也、臼田あさ美、櫻井海音、林泰文、及川光博、常盤貴子、北村一輝
脚本:詩森ろば
脚本協力:畠山隼一、岡田真理
演出:宮崎陽平、嶋田広野、小牧桜
プロデュース :飯田和孝、中西真央、中澤美波
教育監修:西岡壱誠
学校教育監修:工藤勇一
製作著作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/mikami_sensei_tbs/