『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』に潜む『フリクリ』的ダイナミズム 鶴巻和哉の作家性
叙情的な演出も得意
ダイナミックな誇張と嘘のアニメーションの面白さ、濃いSFへの造詣の深さだけが鶴巻監督の持ち味ではない。鶴巻監督は、情感や叙情性溢れる描写の上手い人でもあるのだ。
『フリクリ』第1話で筆者の最も引用に残っているシーンは、橋の下の川原でたたずむナオ太とマミ美を捉えたショットだ。水面はキラキラと輝き、2人は逆光で暗く描かれ、青春の1ページの切ない情景だ。ちなみに『GQuuuuuuX』でも橋の下にマチュ、ニャアン、シュウジが集まるシーンがあった。
『トップをねらえ2!』でもこうした情感溢れるシーンは随所に見られる。第3話では雪が降らない木星に雪を降らせるエピソードがあるが、何とも言えない抒情性に彩られていた。ノノとチコが新型のバスターマシンにどちらが搭乗するか争う中で、貧しい木星の子どもたちが雪を降らせてほしいと懇願する。紆余曲折あって、マイナス1兆度の光線で敵を凍らせ粉々になったその氷が雪のように木星に降る。そのイメージがとても美しかった。
『GQuuuuuuX』の主人公マチュは、ふとしたことで移民の少女ニャアンと出会い、コロニーの外(宇宙)への想いを強くしていき、危険なグランバトルにも挑んでいく。ここではないどこかへ飛び出していきたいという気持ちを抱えているのは、『トップをねらえ2!』の主人公ノノとも共通している。『フリクリ』のナオ太は遠くアメリカに行ってしまった兄を想いつつ、日常から抜け出せないでいることに鬱屈を抱えている。
「ガンダム」という題材は、少年少女の葛藤を描き続けてきたシリーズでもあり、この点でも鶴巻監督の持ち味が活かされやすいと言える。濃いSFネタもやれるし青春の葛藤も描けて、アニメ―ションとしての飛躍した誇張や嘘といったカタルシスも竹氏のキャラクターデザインならばやりやすいだろう。『GQuuuuuuX』は、鶴巻監督のやりたいことがたくさん詰め込まれたものになるのかもしれない。その萌芽が先行上映で感じられた。
引用
※1. 木俣冬「フリクリ decade」、『FLCL フリクリズム プラス プラス』株式会社ムービック、2010年9月30日刊、P140
※2. 鶴巻和哉・貞本義行『フリクリック ノイズ』、太田出版、2010年8月14日刊、P26
※3. 小黒祐一郎「この人に話を聞きたい 第三十回鶴巻和哉」、『アニメージュ』2001年4月号、徳間書店、P104
※4. 石井克人×鶴巻和哉「アニメーションのさまざまな可能性を試したい」、『広告批評』、2002年5月号、マドラ出版、P84
※5. 大森望「新SFインターセクション 第5回ゲスト 鶴巻和哉」『SFマガジン』2001年5月号、早川書房、P110