上白石萌歌のすべてが詰まった映画『366日』 豊かなキャリアが活かされた“俯瞰的視点”
たしかに、高校生を演じられるからといって、いつまでも高校生役を演じるよりも、演じ手自身の実年齢に合った役どころに果敢に挑戦していくべきだろう。これにはいろいろな考え方があるとは思うのだが、俳優が年齢を重ねれば重ねるほど、人生経験は豊かになり、価値観にも変化が生じてくる。だから20代の俳優が高校生役を演じるとき、そこには俳優個人の“大人な視点(=俯瞰的な視点)”が入ってくるのだと思う。するとそのキャラクターの強度は増し、スキのないものになるのだろう。
けれども、20代前半の俳優にとって、20代前半でいられる時間は一瞬だ。ドラマならば『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(2019年/日本テレビ系)が、映画ならば『子供はわかってあげない』(2021年)が、上白石が高校生役を演じた代表的な作品としてすでに存在する。もう十分、といったところなのかもしれない。上白石本人の生きる時間は前だけを向いて進んでいるのだから、その時々に適した作品や役どころに挑む彼女の姿こそを観たいと思うだろう。
『366日』には、美海の高校生時代が収められ、大学時代、そしていくつかの人生の転機が描かれている。上白石の演技にもっともリアリティが感じられたのは、やはり美海が20代前半のパートだ。そこで彼女の人生におけるひとつ目の大きな転機が訪れ、生々しく感情が溢れ出るさまに、観ていて心が揺さぶられる。まさしく等身大の演技だ。しかし美海が30代に入ってからのパートには、これまで見たことのなかった上白石の姿がある。表情がある。声がある。本作には、現時点における俳優・上白石萌歌のほとんどすべてが詰まっていると思うのだが、どうだろうか。
■公開情報
『366日』
全国公開中
出演:赤楚衛二、上白石萌歌、中島裕翔、玉城ティナ、稲垣来泉、齋藤潤、溝端淳平(友情出演)、石田ひかり(友情出演)、国仲涼子、杉本哲太ほか
inspired by HY「366日」
監督:新城毅彦
脚本:福田果歩
音楽:日向萌
原作:「366日」物語委員会
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、松竹
製作:映画「366日」製作委員会
©2025映画「366日」製作委員会
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