木村拓哉は“平凡な男”をどう演じるのか 山田洋次監督との再タッグで“覚醒”に期待
つねにトップスターであり続ける彼は、不死身の主人公を演じた『無限の住人』(2017年)や織田信長役に扮した『レジェンド&バタフライ』(2023年)、あるいは公開中の『グランメゾン・パリ』など、毛色は違えどある種の華々しさ(=インパクト)を持ったキャラクターを演じ続けている。“挫折”を味わう役どころを務めることはあるが、“さえない日々を送るタクシー運転手”と木村のイメージは、どうにもうまく結びつかない。
演技者として新境地を切り開いた『検察側の罪人』(2018年)では人生を転落していく主人公を力演してみせたが、『TOKYOタクシー』の作風がその真逆を行くものであるのは間違いない。おそらく宇佐美浩二とは、私たちが日々を過ごす中で知らないうちにすれ違っているような、そんな身近な存在なのではないだろうか。ひょっとすると昨日の夜に乗ったあのタクシーの運転手が……というような。であれば木村に求められるのは、等身大の人物像を立ち上げるパフォーマンスだ。
ここで気になってくるのが、山田監督と木村がタッグを組むのは2度目にして19年ぶりだということ。2006年公開の時代劇『武士の一分』は、山田監督が平成の時代に手がけた代表作のひとつであり、主演の木村は同作で真の演技者として覚醒した印象が強くある。
山田監督は本作の製作発表記者会見で、木村の起用について「彼の優しくて暖かい面を盗み撮りたい。タクシー運転手という平凡な1人の男になった時に、彼が普段人に見せないような姿がふっと見られたら素敵だと思う。今までの木村拓哉さんの作品にはない魅力をこの映画で奪い取りたい」と述べている。そこには私たちのまだ知らない俳優・木村拓哉がいるのだろうか。山田監督と、山田組常連の倍賞と手を取り合い、ここで再び演技者として覚醒するのか。もしするならば、それはこれまでとはまったく違う、穏やかなものとなるのだろう。
■公開情報
『TOKYO タクシー』
11月21日(金)公開
出演:倍賞千恵子、木村拓哉
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、朝原雄三
原作:映画『パリタクシー』(監督・脚本・プロデューサー:クリスチャン・カリオン/脚本:シリル・ジェリー)
音楽:岩崎太整
配給:松竹