『嗤う蟲』は新たな“ヒトコワ映画”の快作だ! 田口トモロヲ演じる悪役は間違いなくMVP

 たとえば、輝道が慣れない農作業をやっていたら、田久保はちょっとしたコツを教えてくれる。輝道が無農薬でやっていたら、案の定、虫に野菜を食われまくってしまい、困っていたら農薬を貸してくれる。こういったちょっとした優しさから仲を詰めてきて、夫婦ぐるみの付き合いになると、「子どもはまだかね?」などの失礼な質問をぶつけつつ、さらに距離を詰め、やがて飲酒運転などの軽犯罪で一気に懐に入り込み、遂には決定的な弱みを握って、自分たちの「仲間」にしてしまうのだ。この嫌な悪役を田口トモロヲが嬉々として演じており、非常に恐ろしい。やがて事態はとんでもない方向に向かっていくのだが、それでも輝道は田久保から逃れることができない。すでに田久保に弱みを握られ、さらには妻との生活も人質に取られるからだ。もし田久保の仲間を抜けたら、経済的に困窮し、さらに村に居場所がなくなってしまう。「この人には逆らえない。何があっても従うしかない」。こうした人間関係での「詰み」は、たとえば学校や会社、何なら家庭でも起きるだろう。劇中でも台詞として印象的に使われるが、ようはこの映画で描かれている恐怖は「イジメ」なのである。そしてそれは、人間が集まる場所では何処にでも起きうる、ごくごく身近な恐怖だ。

 本作は田舎スリラー映画であることは間違いなく、誇張が効いた役者陣の演技も楽しめるだろう。しかし、その恐怖は田舎住みだろうが、都会に住んでいようが、驚くほど身近に感じられるはずだ。最初は「嫌なカップルだなぁ」と思った主人公夫婦が、最終的には「もうやめてあげようぜ」と素直に同情できるくらい、本作の恐怖の強度は高い(このへん、さすが城定秀夫監督である)。心霊の恐ろしさを描いた邦画は多いが、どっこい人間だって負けていない。人が怖い映画、いわゆるヒトコワ映画の快作としてオススメしたい。人間、やればできる!

■公開情報
『嗤う蟲』
1月24日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
出演:深川麻衣、若葉竜也、松浦祐也、片岡礼子、中山功太、杉田かおる、田口トモロヲ
監督:城定秀夫
脚本:内藤瑛亮、城定秀夫
音楽:ゲイリー芦屋
製作幹事:ポニーキャニオン
製作プロダクション:ダブ
配給:ショウゲート
2024年/日本/カラー/シネスコ/DCP5.1ch/99 分/PG-12
©2024 映画「嗤う蟲」製作委員会
公式サイト:waraumushi.jp

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