『劇場版 忍たま乱太郎』は大人男性も唸る忍者アクション映画 土井先生ときり丸の絆に涙

 またアクションだけではなく、この雑渡と山田先生の関係性のヒリヒリ具合も、見応えがある。一時的に共闘はしているが、本来味方ではない。お互いの実力のほどは理解しているため、できれば戦いたくはない。だからこそ、山田先生が「必ず土井先生を見つけだす」と言った時の雑渡の「いつです?」という返しの怖さが際立つ。「このまま天鬼になった土井先生がドクタケ側に居続けるのなら、我々にとっても脅威となりますので、我々は土井先生を殺しますよ。そのせいで我々とあなた方が争うことになるやもしれませんよ」という雑渡の忠告でもあるのだ。

 今作の原作は、アニメシリーズの脚本家の1人でもある阪口和久が2013年に発表した小説である。原作では、山田先生がドクタケ城に忍び込むために「山田伝子」に扮するお約束のギャグシーンもある。だが今回の映画版ではシリアスに徹し、本来の一流忍者の顔を見せている。

 山田先生が、桜木・若王寺ペアと戦闘になるシーンがある。まず桜木の攻撃をかわしつつ腕を極め、そのまま合気道でいう四方投げで投げる。そして若王寺の手裏剣を水筒で受け、その水筒を若王寺の鳩尾に投げる。若王寺はダメージでうずくまる。四方投げは腕を極めて投げるので受け身が取りにくく、頭から落とせば致命傷である。飛び道具の命中率もそれだけ高いなら、苦無や手裏剣を投げていれば、これもまた致命傷である。それをせず、手加減して生け捕りにする余裕があるところに、雑渡と同種の底知れぬ強さを感じさせる。

 このように大人たちがみなシリアス方向に振っているため、一年は組の面々がギャグパートを一手に引き受けている(一部、平滝夜叉丸先輩も)。この点も原作からの改訂である。原作では、乱太郎、きり丸、しんべヱ以外の一年生は、ほとんど出てこない。だが映画版では、彼ら全員が一丸となり、力及ばずながらも土井先生を救うために子供なりに奮闘する。その姿には、テレビシリーズと同じように笑わせられる。と同時に、その健気さに泣かされてしまう。

 特に、きり丸と土井先生の関係性は特別である。同じような生い立ちの2人は、実の親子、あるいは実の兄弟よりも固い絆で結ばれている。だから、ドクタケ忍者隊首領・稗田八方斎が乱きりしんを斬れと天鬼に命じたとき、乱太郎としんべヱは明らかに狼狽したが、きり丸は土井先生を信じて、ただジッと土井先生を見つめていた。テレビシリーズしか知らない筆者は、きり丸と言えば“目を小銭にしてあひゃあひゃと笑ってる人”というイメージしかなかった。そのきり丸に、ここまで泣かされるとは思わなかった。

 老若男女問わず、全年齢全性別が楽しめる作品だ。テレビシリーズをおぼろげに知っているだけだったのに、この映画を観て以来すっかりハマってしまった筆者が保証する。1月17日からは、入場者特典第5弾、描き下ろし脚本付きイラストカード(全3種)が配布されている。また劇場に行かねばならない。

■公開情報
『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』
全国公開中
出演:高山みなみ、田中真弓、一龍斎貞友、関俊彦
原作:『落第忍者乱太郎』尼子騒兵衛(朝日新聞出版刊)、テレビアニメシリーズ『忍たま乱太郎』、『小説 落第忍者乱太郎 ドクタケ忍者隊 最強の軍師』(原作・イラスト:尼子騒兵衛/小説:阪口和久/朝日新聞出版刊)
監督:藤森雅也
脚本:阪口和久
キャラクターデザイン:新山恵美子
アニメーション制作:亜細亜堂
配給:松竹
製作:劇場版忍たま乱太郎製作委員会
©尼子騒兵衛/劇場版忍たま乱太郎製作委員会
公式サイト:https://sh-anime.shochiku.co.jp/nintama-movie/
公式X(旧Twitter):@nintama_eiga

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