ベン・スティラーのギャグセンスが光る 『セヴェランス』には身近なディテールが満載

 俳優監督のスティラーらしく、キャストアンサンブルも素晴らしい。アダム・スコット、ザック・チェリー、ブリット・ロウアーら演技巧者にとって本作は代表作となり、ジョン・タトゥーロ、クリストファー・ウォーケンら大ベテランがこれまでにない新境地を開拓している。中でも創業者を崇め、事典全集のように分厚い社則を愛でるベテラン社員に扮したタトゥーロの演技は感動的。またスティラーとは盟友関係ともいえるパトリシア・アークエットが鬼上司を怪演。恐怖と笑いを共存させ、登場する度にシーンをかっさらっている。

 ルーモン社は多分野に進出している大企業のようだが、主人公マークの仕事内容は皆目見当がつかない。古めかしい箱型デスクトップをにらみ、画面上を浮遊する数字列から“怖い”と感じた数をドラッグ&ドロップするだけ。何かを計測しているのか、はたまたデス・スターを作っているのか、いったいこれが何を意味するのか誰にもわからない。“ブラック企業”なんて言葉が生まれた日本の視聴者にしてみれば、ルーモンは見れば見るほど怪しい会社だろう。安っぽい褒章と陰湿な懲罰で会社への過度な帰属意識を植え付け、従業員を徹底的に管理。ミッドセンチュリー調のモダンなオフィスはやけに天井が低く、広い室内には同僚含め4人しか働いていない。廊下は迷路のように複雑で、他部署が何処にあるのかも不明だ。無意味で不必要にも思えるブルシット・ジョブを続けるためなら、いっそのこと会社とプライベートの人格を分離した方がマシなのか? 『セヴェランス』はなんとも身近なディテールが満載なのだ。

 終始、何が起きているのかわからない不気味なムードに満ちた本作。しかし、第1話冒頭「Who are You?」の台詞から一貫して実存と自由意志について問いかけるオーセンティックなSFであり、ここにはほとんど『マトリックス』のような興奮がある。自分を殺し、特段のこだわりもなく会社に勤めている人も少なくないだろう。だが、自分の個性なくして労働は成立するのだろうか? 仕事とは人生を構成するアイデンティティになりえないのだろうか? 大波乱のクリフハンガーで幕を閉じたシーズン1から3年。待望の続編シーズン2は1月17日からAppleTV+で毎週配信される。オンエアの金曜日は残業せずに全員帰宅すること!

■配信情報
『セヴェランス』
Apple TV+にて配信中
画像提供:Apple TV+

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