『全修。』の奇想天外な世界観から目が離せない アニメーターの“全修力”を描く異質な試み

 もっとも、『全修。』の本質は、猛スピードで描きあげられた原動画が、細かく書き込まれたタイムシートに挟まれて作画机に叩きつけられ、そこに描かれていたシーンが現実となって出現するところにある。第1話「始線。」では、宮﨑駿監督の『風の谷のナウシカ』において、誰が観ても屈指のスペクタクルと言えるであろう、巨神兵の砲撃を彷彿させるシーンが出現した。

 『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督が作画したことでも知られるそのシーンを、作中ではナツ子があっという間に描き上げては巨大なバケモノにビームを発射させ、群がるモンスターたちを焼き払ってのけた。地平線が曲線を描きながら隆起し、輝き浮かび上がって爆発するシーンの迫力は、「本家」にもしっかり迫っていた。実際に描いたアニメーターたちの頑張りに、心からの拍手を贈りたい。

 結果、死ぬはずだったキャラクターが救われ、鬱々とした展開へと向かうはずだった『滅びゆく物語』のストーリーも変わっていくのかというと、そこは『はめふら』のような既存の転生ものによくあるように、物語の強制力が働いて本来のストーリーをなぞろうとするのかもしれない。それを防ぐために、ナツ子の「全修力」が発揮されるというのがこの『全修。』の今後の展開なのだと仮にするなら、視聴者の興味はそこでどのようなアニメの名シーンが持ち出されるかに集注する。

 それがどの作品のどのシーンなのかを予想し、実際に登場したシーンに驚嘆し、オリジナルと比較してどこまで再現されているのかを評価して、アニメーターたちの頑張りを賞賛する。同時に、原点を振り返りつつアニメの良さを再確認する。そんな楽しみをこれからの放送で味わっていけそうだ。制作を手がけているのが、ハイクオリティのアニメ作品を次々に送り出して評判のMAPPAだけに、期待以上のものを見せてくれることだろう。

アニメの持つ“表現の多彩さ”をどう描いていくのか

 世界の宮﨑駿監督が最初に召喚されたのなら、次に召喚されるのは押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』か、それとも大友克洋監督の『AKIRA』あたりか。宇宙戦艦が飛んだり巨大ロボットがビーム状のソードを振り回したりするのか。名作・名監督が居並ぶ日本のアニメの歴史を考えると、あれもこれもと浮かんで予測がつかない。ナツ子が作中で手がけていたような魔法少女ものの出番もあるかもしれない。そうしたエピソードを積み重ねる中で、アニメの持つ表現の多彩さを改めて思い出していけるだろう。

 アニメに感謝する気持ちを喚起されそうな作品が、アニメ作りで奮闘するクリエイターたちへの感謝にもつながって、さまざまな苦労が取り沙汰されているアニメ制作の現場の改善につながれば、『全修。』という作品を送り出した側にとっても嬉しいところだろう。そこで大切なのはクオリティだという結論に達し、そのために全修も辞さない監督を讃えるべきとなるかどうかは、少し判断に迷うところだが。

■放送情報
『全修。』
テレ東系列ほかにて、毎週日曜23:45~放送
原作:山﨑みつえ、うえのきみこ、MAPPA
監督:山﨑みつえ
脚本:うえのきみこ
キャラクター原案・世界観設定:辻野芳輝
キャラクターデザイン・総作画監督:石川佳代子
総作画監督:高原修司、早川加寿子、住本悦子
副監督:野呂純恵
美術監督:嶋田昭夫
色彩設計:末永絢子
撮影監督:藤田健太
編集:武宮むつみ
音楽:橋本由香利
音響制作:dugout
キャスティングマネージャー:谷村誠(サウンド・ウィング)
アニメーションプロデューサー:小川崇博
制作:MAPPA
出演:永瀬アンナ(広瀬ナツ子)、浦和希(ルーク・ブレイブハート)、釘宮理恵(ユニオ)、鈴木みのり(メメルン)、陶山章央(QJ)
©全修。/MAPPA
公式サイト:https://zenshu-anime.com/

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