『サユリ』はホラーが苦手な人にこそ観てほしい タフで優しいばあちゃんに学ぶ“生きる力”

『サユリ』は生きる力を賛美する物語だ

 大暴れするばあちゃんの人生哲学は、「生者の力を信じろ」という一点に集約される。たとえ悪霊であろうが相手は一回死んだ雑魚である。それより今も生き残っている人間のほうが強いのは当然のことなのだ。だから命を濃くする必要がある。健康的な生活を送り、家を綺麗に保つこと。そして笑い、心を強くすることが何より重要なのだ。これは生者としての誇りを取り戻す行動でもある。恐怖に囚われることで邪悪な存在につけ入る隙を与えるのではなく、生きる力を前面に押し出すことが、死者への最大の対抗手段になるのである。敵であるサユリは恨みの塊ともいえる悪霊だが、則雄は命ある人間としてのベストプラクティスを通じて、「生きている人間の恨みがこの世で最も恐ろしい」ことを知らしめていくのである。

 白石監督はこれまでも人間ならざる存在との対決方法を示してきてくれた。例えば『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズの工藤ディレクターは、悪霊とも暴力(物理)で戦えることを教えてくれた。しかし一般人が急に悪霊に襲われたとき、暴力に訴えるのは相当に難しいはずだ。その点、『サユリ』のばあちゃんが示す対策は日常に根差した実直かつ説得力のあるものだ。これなら誰にも出来るはずだし、何より心と身体の健康にも良い。

 『サユリ』が描くのは、単なるホラー映画ではなく、生者がどれほど強い存在であるかを教えてくれる物語だ。絶望的な状況でも、命を濃くして日常を取り戻す。その姿を示してくれるばあちゃんは、我々の心に住み着き、きっと生きる力を与えてくれるだろう。神木家がそうであったように、人は時として完全に理不尽な出来事に見舞われる。事件や事故、自然災害、大切な人を失う悲劇。そのような時でも、ばあちゃんの言葉は我々を助け、未来に向かうための力になる。

 ばあちゃんが語る「命を濃くしろ」という言葉には、死者への反抗以上の意味がある。それは理不尽に負けない覚悟であり、同時に生きる者としての誇りの再確認だ。サユリという不幸な怨霊が象徴するのは、生者が持つ「力」を見失った時に生まれる絶望の姿である。この映画が伝えるのは、理不尽を超えた先にある「生きることの意味」だ。だからこそ『サユリ』は恐怖と同時に、生きる歓びをも観る者に感じさせる稀有な作品となっている。

 いつの時代も、ばあちゃんは強くて優しい。『サユリ』のばあちゃんは確かに少し様子がおかしいが、彼女が教える生きる力を、ぜひこの作品を通して体感してほしい。

■配信情報
『サユリ』
DMM TVにて独占配信中
出演:南出凌嘉、根岸季衣、近藤華、梶原善、占部房子、きたろう、森田想、猪股怜生ほか
監督:白石晃士
原作:押切蓮介『サユリ 完全版』(幻冬舎コミックス刊)
脚本:安里麻里、白石晃士
©2024「サユリ」製作委員会/押切蓮介/幻冬舎コミックス
作品ページ:https://tv.dmm.com/vod/detail/?season=qpq0boxzz5ihj5sf0w1phoxvb

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https://youtu.be/TWypBhR9Ql8

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