“震災もの”としての『おむすび』の新規性 被災を追体験する連続ドラマならではの演出

“震災もの”としての『おむすび』の新規性

 そうやって埋もれてしまった被災体験の記憶と真摯に向き合ったのが、2010年に放送された『その街のこども』だ。

 本作は「阪神・淡路大震災 15年特集ドラマ」としてNHKで放送された単発ドラマ。脚本を朝ドラ『カーネーション』(2011年度後期)の渡辺あや、監督を井上剛が担当している本作は、幼少期に被災した男女が15年ぶりに訪れた夜の神戸で出会い、夜道を歩きながら、お互いの被災体験について語り合う物語だ。揺れの多い長回しのカメラ映像が印象に残る本作は、主演を務めた森山未來と佐藤江梨子が神戸出身で、神戸市の東遊園地で行われた「追悼のつどい」の様子が挟み込まれていることもあってか、ドキュメンタリータッチのドラマとなっている。

 二人には被災体験があるが、一言で被災と言っても二人が経験した苦しさの質が大きく異なることが、次第にわかってくる。

 同じ被災者と言っても、住んでいた場所や年齢によって感じ方は様々で、人の数だけ被災体験が存在することは『おむすび』でも描かれているが、『その街のこども』が今観ても古びていないのは、いち早くそのことを描いていたからだろう。

 本作放送の1年後の3月11日に東日本大震災が起こり、その後、震災を題材にしたドラマや映画が多数作られた。その筆頭が、『その街のこども』の井上剛がチーフ演出を務めた宮藤官九郎脚本の朝ドラ『あまちゃん』(2013年度前期)だ。本作はアイドルを目指す天野アキ(能年玲奈)の物語だが、東日本大震災が描かれたのは終盤で、アキを筆頭とするこれまで慣れ親しんできた愛着のある登場人物が震災に遭遇するからこそ視聴者は強い痛みを感じ、その困難を乗り越ていていく姿にカタルシスが生まれた。

 3.11から2年後の2013年に制作されたこともあってか『あまちゃん』の震災との向き合い方は前向きで「未来」に向かう希望が描かれていた。対して、『その街のこども』の阪神・淡路大震災は、子供時代の「過去」の苦い記憶として描かれており、その記憶と大人になって向き合う姿が描かれた。

 過去の記憶と向き合う姿勢は『おむすび』にも引き継がれているが、被災体験の映像を繰り返し挟み込むことで、連続ドラマならではのアプローチに仕上がっている。

 第10週では、子ども防災訓練の炊き出しの献立を考えることになった結が、商店街の人々に震災時の避難生活について話を聞くことで当時を振り返る様子が描かれたように、おそらく今後も震災体験を振り返る場面が節々で挟み込まれるのだろう。その場限りの悲劇として震災を消費せず、今の自分たちの現実にその都度フィードバックし、記憶を現在に繋げていく。この現在と過去の往復は、長丁場の朝ドラだからこそ可能な意義のある見せ方である。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、宮崎美子、松平健、佐野勇斗、菅生新樹、松本怜生、中村守里、みりちゃむ、谷藤海咲、岡本夏美、田村芽実ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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