『モアナと伝説の海2』北米で歴史的ヒット イーストウッド最新作はタイミングに恵まれず

 ディズニーは『モアナと伝説の海2』をアニメシリーズから劇場用長編映画として再構築し、『エイリアン:ロムルス』を配信リリースから劇場公開に切り替えた。『ウルフズ』のジョン・ワッツ監督はAppleとの関係を切り、マーゴット・ロビー主演&エメラルド・フェネル監督の新作映画『Wuthering Heights(原題)』はNetflixによる高額のオファーを蹴り、その約半額でワーナー・ブラザースと組むことにした。映画館の復活に伴い、ハリウッドのスタジオやフィルムメイカーはストリーミングから劇場に戻りつつある。

 奇しくも日本では、クリント・イーストウッドの監督最新作『陪審員2番』が劇場公開を見送られ、U-NEXTでの配信リリースされることが物議を醸している。しかし実際のところ、『陪審員2番』はタイミングが悪かったと言わざるをえないだろう。

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『硫黄島からの手紙』(2006年)や『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)などの名作を手がけてきた、巨匠監督にして名優クリン…

 『陪審員2番』の不遇については以前の記事を参照いただきたいが、今年のワーナーは『マッドマックス:フュリオサ』と『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』という大作2本を連続で失敗し、もはやリスクを負えない状況だ。6月には、ケヴィン・コスナーの主演・監督による西部劇映画『Horizon: An American Saga – Chapter 1(原題)』が興行的にうまくいかず、8月に予定されていたパート2の劇場公開を撤回している。

 それ以前にも、ワーナーは『Batgirl(原題)』や『Coyote vs. Acme(原題)』の2本を(映画はほとんど完成していたにもかかわらず)経済的な事情からお蔵入りにしていた。親会社のワーナー・ブラザース・ディスカバリーは、2022年の事業統合以来400億ドル以上の負債を抱えており、いくつものプロジェクトを停止し、レイオフを繰り返していることでも知られる。

 デヴィッド・ザスラフCEOは、イーストウッドの前作『クライ・マッチョ』(2021年)の不振を受けて「なぜ作ったのか」と疑問を抱き、「これは遊びではなくビジネスだ」と語ったといわれる。『陪審員2番』の製作には2023年4月にゴーサインが出たが、自社と業界全体の状況がなかなか好転せず、ストライキの影響も心配されるなか、イーストウッドが真っ先にコストカットの標的になったとも考えられるだろう。

 しかし、現在のハリウッドは(紆余曲折を経ながらも)回復に進んでいる。大人向けの映画に観客をどう呼び戻すかは別の問題だが、以前のように大作映画が集客できる状況が戻ってくれば、スタジオも思い切ったリスクを取りやすい。『陪審員2番』の完成があと1年遅ければ、ワーナーは別の判断をしていたかもしれないのだ。

 逆に言えば、『陪審員2番』の不遇だけを見て「ハリウッドはもうおしまいだ」などと嘆くのはあまりにも視野が狭く、また近視眼的だろう。そういった業界内外のインスタントな判断が、コロナ禍において配信の偏重を招き、結果的にイーストウッドの不遇につながる状況を生んできた。今はまだ過渡期の途中であり、何ひとつ確かな結果は出ていない。

北米映画興行ランキング(11月29日〜12月1日)

1.『モアナと伝説の海2』(初登場)
1億3550万ドル/4200館/累計2億2100万ドル/1週/ディズニー

2.『ウィキッド ふたりの魔女』(↓前週1位)
8000万ドル(-28.9%)/3888館(変動なし)/累計2億6242万ドル/2週/ユニバーサル・ピクチャーズ

3.『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(↓前週2位)
3070万ドル(-44.2%)/3580館(+8館)/累計1億1120万ドル/2週/パラマウント・ピクチャーズ

4.『レッド・ワン』(↓前週3位)
1289万ドル(-2.5%)/3432館(-600館)/累計7605万ドル/3週/Amazon・MGM

5.『The Best Christmas Pageant Ever(原題)』(↑前週6位)
327万ドル(-4.5%)/1779館(-500館)/累計3200万ドル/4週/ライオンズゲート

6.『Bonhoeffer: Pastor. Spy. Assassin.(原題)』(↓前週4位)
240万ドル(-52.4%)/1800館(-100館)/累計974万ドル/2週/Angel Studios

7.『ヴェノム:ザ・ラストダンス』(↓前週5位)
220万ドル(-43.2%)/1716館(-842館)/累計1億3786万ドル/6週/ソニー

8.『Heretic(原題)』(↓前週7位)
95万ドル(-57.2%)/660館(-962館)/累計2682万ドル/4週/A24

9.『野生の島のロズ』(↓前週8位)
67万ドル(-68.1%)/883館(-1227館)/累計1億4249万ドル/10週/ユニバーサル

10.『リアル・ペイン~心の旅~』(↑前週11位)
66万ドル(-38.7%)/505館(-680館)/累計612万ドル/5週/サーチライト・ピクチャーズ

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年12月2日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照

※ https://variety.com/2024/film/box-office/moana-2-box-office-thanksgiving-wicked-massive-second-weekend-1236231692/
https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W48/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/moana-2-box-office-record-opening-1236074018/
https://deadline.com/2024/12/box-office-moana-2-wicked-thanksgiving-1236189131/
https://variety.com/2024/film/news/clint-eastwood-juror-no-2-release-warner-bros-burying-1236188876/

■公開情報
『モアナと伝説の海2』
12月6日(金)全国公開
監督:デイブ・デリック・ジュニア
音楽:アビゲイル・バーロウ、エミリー・ベアー、オペタイア・フォアイ、マーク・マンシーナ
日本版声優:屋比久知奈、尾上松也、小関裕太、鈴木梨央、山路和弘、ソニン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
全米公開日:2024年11月27日/原題:Moana2
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