『おむすび』を通して知る“カラオケ”と“ドラマ”が求められる理由 長いプロローグの終わり

『おむすび』長いプロローグの終わり

 結は姉の変貌によって父が苦悩するのを目の当たりにして、自分までおしゃれすることはできなくなってしまったのだろう。ここで問われるのは、無意識に言動を抑制してしまっていることである。自分の感情を押さえつけてしまう理由を認識し、言語化することができれば、対処方法が見えてくる。

 結と歩の場合は、カラオケで浜崎あゆみの歌を歌うことで、自分の感情に気づくことができた。歌とは人がうまく言葉にできない感情を代わって表現してくれるものである。浜崎あゆみや安室奈美恵の楽曲を聞くと、当時の感情が鮮やかに蘇ってくる人がたくさんいると思う。ドラマの物語と並行して自分の物語が走り出し、感動が倍増する。それこそがドラマに実在する音楽を使う効能である。

 そして、カラオケとは、スター歌手が歌うヒット曲を、自分なりに歌いその世界に没頭できる装置である。楽曲が自分の声を通して自分の物語に変化していく。のど自慢なんかもその発想だろう。

 歌を自分の物語にできるカラオケは1970年代からあったようだが、1980年代にブームとなり、1990年代には通信カラオケの登場によってますます盛り上がっていった。

 ドラマを観て自分語りすることもまた、カラオケで歌うのと近い娯楽なのではないだろうか。『おむすび』は誰もが無関係ではいられない震災の過去と現在と未来を「自分ごと」として考えるために工夫しながら作っているドラマである。「自分ごと」にしやすい感覚を、歌やドラマで得ることで、社会問題をも自分の物語として身近に考えられるようになるのではないだろうか。

 さて。第30話、歩が実は浜崎あゆみの「Boys&Girls」のカラオケビデオのモデルをやっていたことが判明したのは思いがけない展開で面白かった。第11話のカラオケシーンをもう一度見返す楽しみがあった。カラオケビデオの映像も、エモーショナルな演出が施されているものが多い。小道具などを心情に見立てるものも多い。第29話の、歩の回想で、転校してきて真新しい上履きの彼女の足元と、通り過ぎていく着古した同級生たちの上履きが映るのも、ちょっと歌が流れてきそうなエモーショナルな画であった。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、宮崎美子、松平健、佐野勇斗、菅生新樹、松本怜生、中村守里、みりちゃむ、谷藤海咲、岡本夏美、田村芽実ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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