『おむすび』を通して知る“カラオケ”と“ドラマ”が求められる理由 長いプロローグの終わり

『おむすび』長いプロローグの終わり

 朝ドラことNHK連続テレビ小説『おむすび』第6週「うち、ギャル、やめるけん」(演出:小野見知)では、結(橋本環奈)がせっかくはじめたギャルをやめてしまう。父・聖人(北村有起哉)に気を遣って、ギャルのみならず、書道部もやめ、家業の農業に勤しみはじめる。

 だが、一度動き出した結の気持ちは簡単に元には戻らない。表面的にはさばさばして見せても、翔也(佐野勇斗)は結の顔がさみしそうであることに気づいて指摘する。結論を先に書くと、結は紆余曲折のすえ、少女時代、のびのびとやりたいことに正直であった頃のキャラに戻り、ギャルも書道もやることにする。

 姉・歩(仲里依紗)や聖人とのわだかまりも溶け、これからが本番(ギャルが栄養士になる)。長い長いプロローグがようやく終わったのである。

 仕掛けとしては、米田親子の確執の原因となった歩の秘密が明かされることで、家族それぞれの気持ちがほぐれる。天神のカリスマギャルになった理由と、それに輪をかけて警察の厄介になるようなことをしでかした理由、さらに東京に出た歩がいまは何をしているのかという事実がすべて判明した。トランプのカードが一気にめくれるように次々と真相がわかっていくのは痛快なようで、ほろ苦かった。というのは、これらがすべて、阪神・淡路大震災で亡くなった真紀(大島美優)に関係しているからだ。

 歩がギャルになったのは、生前、真紀が東京でギャルモデルをやりたいと言っていたからだった。真紀がこの世からいなくなったことを認めたくなくて、真紀が歩んだであろう道を代わりに生きようとした歩の健気さ。ギャルの掟も真紀の口癖だったのだ。

 震災に限ったことではなく、大事な人が亡くなってしまったとき、いつまでも忘れることができない人は少なくないだろう。多感な10代の歩は、中学で新たな生活を送ることで記憶を上書きすることができず、中学に行けなくなった。

 彼女なりの前に進む方法が、真紀の人生を歩むことだった。自分の身体を真紀の魂に貸すかのような、真紀とともに生きようとする試み。だが、それはなかなかうまくはいかない。歩が自分を本物のギャルじゃない、偽物だと卑下し続けたのは、どんなに頑張っても、真紀にはなれないというやりきれなさがそう言わせるのであろう。

 歩はカリスマのようになったものの、おそらく彼女はさほどギャルに興味があったわけではなかったがため、ギャルを心から楽しめていなかったのかもしれない。実は、歩以上に着飾ることの楽しさを知っていたのは他ならぬ結であったのだ。

 幼い頃はセーラームーンに憧れて、ヘアスタイルや衣裳や仕草を真似ていた結。かわいいものが大好きだった結が、震災後はそういう楽しみを我慢するようになってしまっていた。ただ、かわいいものが好きなのだろうなあというのは、部屋にぬいぐるみがたくさん置いてあったり、キャラクターグッズを持っていたりすることから察せられる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる