宇野維正の映画興行分析

遂にトップ5入りを果たした自主製作映画『侍タイムスリッパー』 快進撃はいつまで続く?

 もう一つ、これは「脚本の映画」であることとも繋がっているのだが、低予算作品であることを言い訳にせず、普段インディーズ作品をほとんど観ないような幅広い観客層も射程に収めた、ウェルメイドさを心がけていること。特に『侍タイムスリッパー』の場合、自主製作映画でありながら東映京都撮影所の協力を得られれたことは、長年時代劇を見慣れてきた年配層の観客も満足できる作品のウェルメイドさに大きく寄与していて、日本国内における映画製作、そして観客の掘り起こしの新しい可能性を示してみせたとも言えるだろう。

 もっとも、自主製作映画のこのような社会現象化は製作サイドが狙ってできるようなことではなく(もちろんそれを目指すこと自体は重要だが)、作品がヒットしてからの分析はあくまでも「後付けの理由」でしかない。実際、そこに再現性のようなものがあれば継続的に同様のヒット作が生まれてもいいものだが、このような作品はヒット規模の基準をある程度まで下げたとしても数年に1本。本連載にできることは、その「驚き」をこうして記録として残しておくことだけだ。

■公開情報
『侍タイムスリッパー』
新宿ピカデリー、TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国順次公開中
出演:山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの
監督・脚本・撮影・編集:安田淳一
殺陣:清家一斗
撮影協力:東映京都撮影所
配給:ギャガ、未来映画社
2024年/日本/131分/カラー/1.85:1/ステレオ/DCP
©2024未来映画社
公式サイト:https://www.samutai.net/

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