大山のぶ代より水田わさびのほうが“原作らしい”? ドラえもんの声優交代が示す時代性

ドラえもんの声優交代が示す時代性

原作準拠性は「大山ドラ<わさドラ」?

 テレビ朝日系TVアニメシリーズ『ドラえもん』で1979年から2005年まで、26年間もの長期にわたりドラえもんの声を担当した大山のぶ代が逝去した。現在、ドラえもんの声を担当しているのは水田わさび。2005年から既に20年近く演じているため、あと数年で大山ドラに並ぶ。

大山のぶ代さんが託した想いは永遠に 『ドラえもん』だけにとどまらない名演の軌跡

2024年はアニメ業界や洋画吹替で活躍した声優の訃報が続き、ファンにとっては悲しい出来事が続いている。10月11日には、9月29…

 にもかかわらず、いまだに「ドラえもんと言えば大山ドラ。わさドラ(水田わさび版ドラえもん)は違和感がある」と言って憚らない人は少なくない。大山の逝去が報じられた際にも、ちらほら耳にした。筆者の観測範囲では、幼少期に大山ドラに親しんだ現在30代以上の日本人に、その傾向が強いように感じる。

 たしかに、大山ドラとわさドラの声は対照的だ。

 独特のガラガラ声で、ときに保護者のように、ときに諭すように、のび太に語りかける大山ドラ。誤解を恐れず言うなら、非常に人間離れした「人であらざる感」の強い、年齢不詳、性別不詳の声質であるため、のび太の暮らす日常世界においては異質な存在である。22世紀の未来からやってきたロボットゆえに、異質なのは当然だが。

 一方、幼げで柔らかく、丸っこく、愛嬌のあるファニーボイスで、のび太と年の近い兄弟のような雰囲気をまとっているのが、わさドラだ。ああいう声、ああいう話し方をする少年がのび太のクラスメートにいても不思議はない。日常世界によく馴染む、身近な声だ。

 2005年の声優交代時、ドラえもん好き界隈では賛否が真二つに割れたと記憶している。大山ドラの声にまったく似ていない、寄せようともしないわさドラの声に戸惑う者、あるいは拒絶反応を示す者すらいた。

 しかし筆者(1974年生まれの大山ドラ世代、『ドラえもん』原作は5歳からの愛読書、毎年春の劇場版は成人後も欠かさず足を運んでいたドラえもん好き)はというと、当時から肯定も肯定、手放しの大絶賛だった。

 大山ドラよりわさドラのほうが、原作準拠性が高い、つまり藤子・F・不二雄の描いた原作のドラえもんに忠実だと感じたからだ。

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ドラえもんはのび太の「保護者」ではなく「バディ」

 原作のドラえもんは、連載最初期を除いてあまり保護者っぽくない。その出自こそ、ダメなのび太の世話をするため22世紀からやってきた保護者という設定だが、当初「のび太くん」と君付けだった呼び方は、すぐに「のび太」と呼び捨てに変わった。距離が縮まり、保護者からバディ(相棒)になったのだ(なお、アニメ版は一貫して「のび太くん」呼び)。

 ドラえもんは、ときにのび太と一緒に調子に乗ったり、ママからふたりまとめて叱られたりする。のび太を助けるだけでなく、のび太に助けられもする。のび太と意地を張り合ったり、取っ組み合いの喧嘩をしたりすることもある。

 それらは明らかに、保護者のふるまいではない。

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 ドラえもんの身長は「129.3cm」だが、これは連載当初の小学4年生の平均身長をもとに、作者了解のうえで決められた設定だと言われている。のび太は小学4年生。すなわちドラえもんはのび太を決して見下ろさない。やはり保護者ではなく対等な関係性なのだ。

 幼げで、“ちょっとバカっぽい小学生男子”ライクなわさドラは、「のび太と一緒にバカもやるバディ」感が大山ドラより強い。2005年当時の筆者が「これぞ原作ドラえもんだ」と喝采したのは、そういうわけである。

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