『虎に翼』松山ケンイチ演じる桂場の変化を読み解く 実際の最高裁長官と何が違った?

 その後、最高裁長官の桂場は、刑法の尊属殺重罰規定が憲法14条に反するという新憲法になって初めての違憲判決を下すが、これも史実と重なる。最終週で「笹竹」に集まった明律大女子部の面々を前に、桂場は自身の考えが時代遅れになっていることを悟り、寅子の言い分を認める。その光景はあたかも、男性中心の社会を代表し、既存の価値観に固執していた桂場が、憲法が掲げる法の下の平等の精神を尊重し、新しい時代へ踏み出すようだった。

 ただし、石田和外その人は自身の考えを変えたと言いきれないところがある。尊属殺重罰違憲判決と同月の1973(昭和48)年4月25日、国家公務員の労働基本権の制限が争われた全農林警職法事件で、それまで限定的に解されていた争議権の制限を限定解釈なしで合憲とする判例変更を行った。これに端を発して、地方公務員や公営企業職員についても同様の判決が下され、現在に至るまで公務員のストライキ権は認められていない。

 石田は日本会議の前身である元号法制化実現国民会議の創設メンバーであり、政治思想的に保守派といえるだろう。では、なぜ桂場をリベラルに寛容な人物として描いたのか。一つの考えとして、司法の独立がヒントになりそうだ。政治権力からの干渉を避けることで、個々の裁判官は良心に従い独立して職務を遂行できることは憲法が定めるとおりだ。三権分立の下で裁判所が立法、行政と均衡を保つことで国民の自由と権利は守られる。

 時代の変化にともなって法の解釈は変わるし、かつて合憲とされた条文が違憲になることもある。男女の不平等を「法」が規定する社会構造としてとらえ、日本国憲法がもたらした変化を個人の生き方に即して語った点に『虎に翼』の達成はあった。未来の希望と変化する可能性を桂場に託したと言えないだろうか?

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