映画『ブルーピリオド』は“原作への入口”として申し分ない一作 115分で描けることの限界も
しかしながら、この実写映画版は端的に言って“お行儀が良すぎる”のではないだろうか。画面の奥に見える地下鉄のプラットホームに向かってキャメラが進んでいくファーストカットと、眞栄田郷敦が演じる八虎が駅の改札を抜ける後ろ姿にさっと重ねられるタイトル。友人たちと合流し、上空の通路を左から右へと進んでいく登場人物たち。明け方の暗いビル街を歩く八虎の上には、青々とした空がある。カチッとスマートに決まってはいるけれども、どこか教科書的で、(もちろん監督の萩原健太郎がCM出身であることは理解した上で)CM的な印象は拭えず、結局ラストまでそれは変わらない。
あえていうならば、努力に努力を重ねて基本的な絵画の技術を習得していった映画中盤までの八虎のように、いまひとつ思い切りが足りず、その反面、非常に安定した構図と技法の枠組みのなかでもがくことなく満足してしまったような映画にとどまってしまっている。最難関への挑戦という劇的なフィナーレをもってしても映画的なカタルシスは弱いままであり、原作という確固たるストーリーのコラージュ映像のまま。もっとも、そもそも絵画の良し悪しや才能の有無というものを一元的に可視化することは不可能であり、“受験”という明白なゴールに向かう八虎の映画に全振りしなければ表現できない題材だけに115分に収めることの限界があったのかもしれないが。
冒頭の話に戻ると、少なくとも原作読者でこの115分をもって『ブルーピリオド』という作品が表現できていると思っている人はほとんどいないだろう。かといってダメな映像化と切り捨てたくなるほどではない。原作を映像的ダイナミックをもって補完するわけでも、新たな解釈を生むわけでもなく、この実写映画版はシンプルに原作を読みたいとだけ思わせる“『ブルーピリオド』の入口”であるに過ぎない。ゆえに“読んでから見るか、見てから読むか”と聞かれれば、後者一択である。
■公開情報
映画『ブルーピリオド』
全国公開中
出演:眞栄田郷敦、高橋文哉、板垣李光人、桜田ひより、中島セナ、秋谷郁甫、兵頭功海、三浦誠己、やす(ずん)、石田ひかり、江口のりこ、薬師丸ひろ子
原作:山口つばさ『ブルーピリオド』(講談社『月刊アフタヌーン』連載)
監督:萩原健太郎
脚本:吉田玲子
音楽:小島裕規(Yaffle)
主題歌:WurtS「NOISE」(EMI Records / W’s Project)
製作:映画「ブルーピリオド」製作委員会
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:ワーナー・ブラザース映画
©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会
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