坂元裕二×塚原あゆ子の作家性は正反対? だからこそ楽しみな『1ST KISS』でのタッグ
坂元裕二が脚本を手がけ、塚原あゆ子が監督を務める映画『1ST KISS ファーストキス』が2025年2月7日に全国公開されることが発表された。
物語は、結婚15年目となる年に夫の硯駈(松村北斗)を事故で亡くした妻のカンナ(松たか子)がタイムトラベルして、自分と出会う前の過去の夫と再会し、もう一度恋に落ちるというSFラブストーリー。何よりドラマファンが驚いたのは、坂元裕二と塚原あゆ子が初タッグを組むということだろう。
坂元裕二は1980年代後半から活躍するベテラン脚本家だ。高視聴率を獲得し、月9ブランドを決定的なものとした1991年の『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)が有名だが、2010年の『Mother』(日本テレビ系)以降は『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)、『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)、『カルテット』(TBS系)、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)といった作家性の強いドラマを次々と執筆し、ドラマファンから熱狂的な支持を獲得している。
近年は『花束みたいな恋をした』や第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した『怪物』といった映画の脚本も手がけており、国内外で高い評価を受けている。そして、昨年はNetflixと5年契約を交わしたことが話題となり、その第1弾となるNetflix映画『クレイジークルーズ』が配信された。
時代ごとの変遷が激しいため一言で作風を説明するのは難しいが、坂元裕二は家族や恋人の小さな物語を描き続けてきた脚本家だ。作家性が高く評価された2010年代のドラマはシングルマザーの貧困や日本社会における女性差別をテーマに据えた社会派テイストの作品が多かったが、近作では社会派テイストは後景化しており、むしろ原点と言えるトレンディドラマの復権を目指すようなオシャレでポップなラブストーリーやスクリューボールコメディに回帰しているように見える。
『1ST KISS ファーストキス』も、あらすじだけ見るとポップなラブストーリーで、坂元ドラマでは常連の松たか子と『キリエのうた』や『夜明けのすべて』といった話題の映画に出演して評価が急上昇している松村北斗の共演というキャッチーなカップリングで、トレンディドラマ的な作品に感じる。
一方、監督を務める塚原あゆ子はTBSスパークルに所属しており、テレビドラマでは新井順子プロデューサーと組んだ『Nのために』や『最愛』といったTBSが得意とするミステリーテイストのヒューマンドラマを多数手がけている。中でも野木亜紀子脚本の『アンナチュラル』と『MIU404』は、大きな反響を呼んだ作品で、8月23日にはこの2作と世界観を共有している映画『ラストマイル』の公開が控えている。
家族や恋人の小さな物語を通して社会を描いてきた坂元とは逆の、警察や国家が物語に関わる大きな物語を通して社会を描いてきた塚原は、同じように社会問題を描いていても、立ち位置は真逆だったと言える。だからこそ2人が組んだ『1ST KISS ファーストキス』がどのような仕上がりになるのか楽しみである。
また、社会派ミステリーをヒューマンドラマとして演出することを得意とする塚原は、スケールの大きなエンタメ大作を撮れる実力を備えた安定感のある職人的なディレクターという印象が強い。だが、時間経過などの特殊な状況を演出する際には、ガチャガチャとした実験的な映像を取り入れている。
中でも深夜ドラマ『夢中さ、きみに。』(MBS)は2人の少年の不思議な物語を並列して描く異色の学園ドラマだったため、実験的な映像表現が全面に打ち出されていた。おそらく映像作家としての塚原のセンスが一番感じられるドラマだろう。
今回の映画に筆者が期待しているのは、どちらかというと『夢中さ、きみに。』のような大胆な演出が垣間見える作品だ。時間SF+ラブストーリーだからこそ、タイムスリップをどう描くかに注目している。