『虎に翼』が朝ドラだからこそ伝えられるもの 原爆裁判と家族裁判を同時に描いた意義

『虎に翼』が朝ドラだからこそ伝えられるもの

 ふだん観てない層が観て、朝ドラというものがさらに注目されるのはいいことではある。長らく朝ドラを愛している層はここは多めに見てもいいのではないだろうか。拙著『ネットと朝ドラ』でも書いたことだが、ネットを誰もが気軽に使えるようになったいま、気になったワードはすぐに検索できる。もちろん、信憑性の薄いものもあるが、基本的なことはわかる。あとはその人次第。どこまで深堀っていくかである。「サンフランシスコ講和条約」「朝鮮戦争」「第五福竜丸」「原爆裁判」、検索して出会った事実からいろいろなことを考えるのもいいだろう。家族裁判で、寅子が多数決ではなく全会一致(全員一致)であるべきだと考えるのも、裁判ごっこのようななかに裁判の知識を織り交ぜていて巧妙である。

 社会的背景のなかで人はどう生きるか。猪爪家の家族裁判も、そもそも、直明が戦中、ひとり離れて岡山で暮らしていたことがトラウマになっていて家族と離れることが怖くてならないという思いがベースになっている。花江の夫・直道(上川周作)が戦死しなかったら、また違う家族形態や生活があったかもしれない。戦争で死んだ直道の代わりに、生き残った弟や息子が花江を不器用ながらとことん大事にしようと考えているのだと思っていると考えたら泣けてくる。

 直治役の今井悠貴は、顔は似てないが、口調や仕草を父・直道に似せようと腐心しているように見える。家族の空気をゆるく変えるムードメーカー的存在に一生懸命なろうとしている次男坊だって、もし父が生きていたら違う生き方をしていたかもしれないのだ。戦後10年、経済的には良くなっていても大事な人の不在は決して埋めることができない。

 寅子と航一の場合は、互いの伴侶の不在を埋めようと近づきながらも、ややためらいを感じ、新しい一歩を踏み出すのかどうするのかで揺れている。航一はかなり乗り気だが寅子はまだ決断できない。原爆裁判でも寅子はどうすべきか考え続けていただきたい。

参照
※ https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/a033a36d5027138c77649dc4d5e6833cd7a04360

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜~金曜8:00~8:15、(再放送)毎週月曜~金曜12:45~13:00
BSプレミアム:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜8:15~9:30
BS4K:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、岡田将生、森田望智、田口浩正、遠山俊也、望月歩、堺小春、三山凌輝、竹澤咲子、高橋克実、片岡凜
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか

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