映画『globe tour 1999 Relation』が届ける圧巻のライブ体験 関係者が明かす当時の制作秘話

 1999年のglobeを切り取った日本音楽シーン最高峰のロックショーの完全版が全国の映画館、そしてBlu-rayで蘇る。

 今から25年前、最盛期を迎えたglobeが4thアルバム『Relation』を引っ提げ、30万人の観客動員を記録したアリーナツアー『globe tour 1999 Relation』は特別だった。映画『未来世紀ブラジル』や舞踏家リンゼイ・ケンプによるショーなどから影響を受けたというコンセプチュアルなステージコンセプトは“恐怖”。アリーナ中央に縦長に伸びた独自のセットに、楽曲ごとにギミックが施されたシアトリカルな演出によって誰もが知る「DEPARTURES」、「FACE」、「wanna Be A Dreammaker」、「Feel Like dance」など、音楽史に刻まれた大ヒット曲を新解釈で表現した。ダークヒーローな感触を予感させるプロットは、心理学による認知的不協和理論、ゲイン・ロス効果を取り入れたことで、あえて感情をどん底に叩き起こしアップリフトするという、振れ幅の大きな衝動を与えることに成功したのだ。

 90年代、そしてY2Kカルチャーが注目される昨今。90年代を一世風靡した音楽ユニットglobeがいかに破格なライブエンターテインメントへとチャレンジしていたかを、まるでライブ会場にいるかのような臨場感たっぷりの高音質サウンドとともに目撃してほしい。

 今回の令和版リマスター作品の上映&リリースにともない、当時の制作秘話を紐解くために、当時フジテレビ事業部に所属していたツアー制作統括プロデューサーである長井延裕、ステージデザイン設計を担当した長瀬正典に話を聞いた。

“多幸感”のイメージから生まれたツアーコンセプト

――ツアー、僕は当時お客さんとして観に行っていました。いまだに、あの規模を越える解像度の高い破格な演出による音楽ライブに出会えたことがありません。ライブというか体験だったんです。

長井延裕(以下、長井):globeに関しては、話し出すと3日ぐらいかかりますよ(笑)。globeプロジェクトは最初からご一緒させていただいていて。まず前提が「予定調和を崩す」ところからはじまるんです。globeが世の中に初めて出たのは1995年の『avex dance Matrix '95 TK DANCE CAMP』。(長瀬さんの顔を見ながら)あれも関わってたでしょ?

長瀬正典(以下、長瀬):いや、僕はドリカム(DREAMS COME TRUE)の「史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND」が近いタイミングでかぶっていたから。

――そんな時期なんですね。ちなみに、「globeプロジェクト」へ参加した経緯を教えてください。

長井:長瀬さんとは、TRFや内田有紀さんが出演した国立代々木競技場の第二体育館で行ったダンスミュージカル『LIVE UFO'95 1999...月が地球にKISSをする』からになるのかな。

長瀬:そうだね。

長井:あれも画期的な「オリジナル・ダンス・ミュージカル」でした。フジテレビのドラマディレクター永山耕三さんの脚本・演出、TRFはじめTKサウンド生演奏、TRFのSAMさん、ETSUさん、CHIHARUさんにたくさんのダンサー、出演者の振り付けはもちろん、360°の円形舞台のステージング演出をお願いして、他に類を見ないライブエンタテインメント。あ、MARCも出演してましたね。フジテレビとしては、小室さんとは永山耕三さんとか諸先輩とのご縁があってお付き合いが始まりました。

長瀬:『LIVE UFO’95 1999...月が地球にKISSをする』の舞台デザイナーが荒川淳彦さんというフジテレビの美術の方で、彼の前身が今でいうNHKアートで、その時の部下が僕でした。独立して声をかけられて。あ、TRFのデビューのライブもやっていたかな。

――なるほど、だんだんといろんな方がリンクしていったのですね。

(左から)長井延裕、長瀬正典

長井:(LIVEという表現の場ではいつも)予定調和を崩すことと、キーワードはシアトリカルというのがステージコンセプトで小室さんの中では一貫しているように思います。

――TM NETWORKの『Coca-Cola PRESENTS TM NETWORK TOUR '88~'89 CAROL ~A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991~』ツアーもそうでしたね。

長瀬:ちなみに1995年に行ったglobeの4大ドームツアー『globe@4_domes』は、小室さんに「ローリング・ストーンズの『スティール・ホイールズ・ツアー』みたいなことできない?」って言われたんですよ。

――常に世界標準だったんですね。おもしろい。

長瀬:誰も、ツアーで使えなかったようなシステムや素材を、globeの仕事だったら使えたんですよ。

――そういう場だったんですね。

長井:とはいえ、馬鹿みたいにお金をかけていたわけではなくてアイデアを大切にしていました。ステージセットは演劇やミュージカルなどで使われている仕掛けやアイデア、ノウハウを生かそうと。当時は音楽ライブにはあまり使われていませんでしたね。ステージスタッフも、仕事の領域が広い方に集まっていただいた。長瀬さん、舞台チームに演劇やっている方がいたよね?

長瀬:多かったですね。

長井:『globe tour 1999 Relation』の小道具、人形とかオブジェの製作と進行は演劇系スタッフの方でしたね。

長瀬:ステージで門が起き上がってくる演出があるじゃないですか? あれは能舞台の柱の役割と一緒で「結界」をイメージしているんですね。ゲートに屋根があれば部屋という見立て。簡単な囲いがあればそれは井筒、井戸という見立て。

――演劇的なアイコンによる表現ということですね。

長瀬:はい。なので、『globe tour 1999 Relation』ではセットが起き上がるたびに夢の世界に変化が起きていく、ということです。

長井:当時、小室さんのスタジオで、プラスチックのCDケースを後にステージで「ゲート」と呼ばれる仕掛けに見立てて動かしながら話しながらイメージを拡げていきました。

長瀬:それを意味づけるのに能の柱などと結びつけていって、「こんな解釈もできるんじゃない?」って他の美術のスタッフとアイデアを出しました。

長井:CDケースからの発想だったので、ステージセットもアクリルにしてみようってなったんでしたよね?

長瀬:透明天板を舞台に使うから、セット転換時に舞台下で動き回っている人が見えちゃうという(笑)。相反するんだけど、見えないようにボックスを作ったり、別のところにお客様の視線をもっていくためにシーンを作ったり……だからこそ面白いっていう考え方で。

――それぞれ逸話が濃いですね。

長瀬:同時に、演出が多いとスタッフも増えるので、どう捌けば良いかを考えてステージ下でスムーズに移動ができるようにしたり。

――ドキュメンタリー映像を観ていると、MARC(PANTHER)が裏で走りまくってめちゃくちゃ忙しそうでした(笑)。それこそMARCのトリックスター的な役回りがカッコよかったですね。

長瀬:0号試写で観た時に、こんなにメイクや衣装替えしてたんだって驚いて。

――ちなみにどんな経緯から、“恐怖”をテーマとしたシアトリカルなツアーコンセプトは生まれたのでしょうか?

長井:小室さんとの雑談から広がりました。演出チームとともに「幸せってなんだっけ?」って話から始まって、どん底まで感情を落とすゲイン・ロス効果を意識して、落として戻すことで得られる“多幸感”というイメージが上がりました。プロットを作るにあたっては、心理学の先生に認知的不協和理論などの話を聞いて理論的に裏付けして、「これはシナリオとしても面白い」ってなって。

長瀬:そんな話を聞いているときに、これに自分が顔を突っ込んだらえらいことになるなって思ったわけ(笑)。だから少し離れたもん。彼らが考えたことに応えられる状況を準備することが大事だなって。

長井:そう、まさに大勢で会議でああでもないこうでもないって話していると出口がわからなくなっちゃうから。なので、コンセプトを詰めるチームを設けて全体のシナリオ作りをして、ステージテクニカルスタッフがデザインと仕様を詰めつつ、アーティストリレーションのチームで同い年の石坂さんと立岡さん(ライブ制作会社:エムトレス)が「演者・演奏者の生理」を代弁してもらい、「お客様」の視点で西さんたちが全国のイベンターさんとのリレーションで券売・プロモーションをとりまとめてくれて。つまり、餅は餅屋リレーションというか、各分野のプロフェッショナルがそれぞれの立ち位置で役割を果たしてくれたからできたんだと思うんです。

――そういうことなんですね。

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