NHK 美術チームの真髄がここに! 『光る君へ』の世界を形作る職人技の裏側を聞く

『光る君へ』の世界を形作る「美術」を聞く

 大河ドラマでは数少ない平安時代を舞台にした大河ドラマ『光る君へ』の楽しみのひとつは、これまでの大河では馴染みの少ない美術や衣装の数々である。

 第1回から平安京の貴族の館の艶やかで雅な美術を楽しんできたが、越前編に入り、まひろ(吉高由里子)が父・為時(岸谷五朗)について越前(現在の福井)で生活するようになると、またガラッと雰囲気が変わった。中国の影響を受け、異国情緒が加わったファンタジックな世界で、まひろの文学者としての感性はいっそう豊かになっていく。

 平安京から越前まで、『光る君へ』の美術の世界をどう作っているのか、NHKの美術スタッフに話を聞いた。

全体のコンセプト

 NHK映像デザイン部・チーフディレクターの山内浩幹さんはこれまでとの違いを「大河ドラマに多い戦国時代は、城や御殿など強者の威厳を出すために、建物の柱などが太いが、『光る君へ』では貴族世界を表現する優美で華奢なフォルムになっています」と説明する。そのため、これまでのセットを使い回すことができず、一から作ることが多いそうだ。

 『光る君へ』の美術を作るにあたり、まず目標に掲げたのが、「平安絵巻の世界を色鮮やかによみがえらせること」「平安らしさの追求」の2点だった。建築考証を担当する広島大学名誉教授・三浦正幸氏からアドバイスを受けながら、美術を準備した。

 多くの資料を読み込んだり、実際に残っている建築物を取材したり、勉強を深めていった。だが、平安時代の建築物はなかなか残っていなかった。

「三浦先生からのご助言で、奈良時代や鎌倉時代の建築も参考にしました。日本最古の本殿が残る宇治上神社は本殿が平安時代後期、拝殿は鎌倉時代前期の造営です。曲線感が独特で優美で、平安らしさの参考にしました」

 また、当時の絵巻物も大いに参考にしているが、古いものなので当時の色合いとは違い、褪色している。

「当時の状態を復元したものを見ると、とても色鮮やかで、柱は白木、御簾や畳も青々としていました。今回はできるだけ当時の鮮やかな色を表現しようと試み、朱色は当時の建築様式を伝える薬師寺や平等院鳳凰堂などを参考にしています」

 なぜそれほど色鮮やかなのかという根拠も調べた。

「上級貴族の館は、毎年、御簾を代えていたようです。また、頻繁に火事が起きて館が消失するたび建て直していたそうで常に真新しい柱や畳や御簾であったと考えられます」

平安京は優雅にスケール大きく

 京都御所などもつぶさに見学し、セットでは清涼殿の間取りや、調度品など可能な限り平安時代の状態を表現している。

「京都御所の見学に行くと見ることのできる、年中行事御障子もオリジナルで制作しましたので平安ファンにはぜひ注目してほしいです」

 セットの図面を書いているデザイナーでNHKアートの枝茂川泰生さんはこう語る。

「清涼殿は、ほかのセットより柱間を広くしています。NHKのスタジオに原寸大を再現することは不可能なので、部屋数を調整し、全体のプロポーションをリサイズしました。それでもスケール感は出したいので、大河ドラマ史上最大の屋根を作りました。安全性が保てるまでの最大限のサイズです。そして、屋根の裏をあえてみせるような撮影をすることで、スケール感を強調しています。清涼殿や東三条殿の廊下(廂)は3メートル近い幅広の廊下にしました。演出の中島由貴さんのリクエストであり、それによって廂に俳優を出して撮影することができて、照明も当てやすく、明るい画面づくりが可能になりました」

 ちなみに、平安時代の建物は風通しが良いが、雨露、寒さはどう防いでいるのだろうか。

「寝殿造という様式では、上下に蔀戸という、跳ね上げて開け閉めする板戸があります。ドラマ上ではほぼ開けていますが、これで室温や明るさを調整していたと思われます」

 セットをよく見ると蔀戸も作ってあるのがわかる。

小旅行の場としての石山寺

 第15回でまひろが詣でた石山寺(滋賀県)は、鎌倉期以降に描かれた『石山寺縁起絵巻』を読み解いて、実際に現地を取材したうえで、雅感のある美術セットを作りあげたと、デザインを担当したNHKアートの羽鳥夏樹さんは語る。

「実際の石山寺は、長い石段を上った先にあり、巨岩の上に建物が建っています。その野趣あふれるスケール感をスタジオで表現することは難しいですが、広い境内、山、谷、川、自然に囲まれた様子など、貴族たちの間では小旅行の場のようだったであろう雰囲気を、各所にちりばめました。まひろたちが掛けている赤い懸帯にも小旅行感が出ています」

 やはり資料だけではなく、残っているものは実地に見て身体で感じることが大事なのだ。ドラマの季節は秋、ということで紅葉が色鮮やかであった。

「眺めのよさをセットに落とし込むように工夫しました」(羽鳥)

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