ヒット作は社会を映す鏡? 『ザ・ボーイズ』など重くシリアスな海外ドラマが増えているワケ
6月13日からPrime Videoで『ザ・ボーイズ』シーズン4の配信がスタートした。スーパーヒーローが実在する世界で、権力を持つ彼らの腐敗とそれに立ち向かう一般人の闘いを描いた本作は、過激な暴力表現で現代アメリカを痛切に風刺し、話題となっている。すでに配信されているシーズン4最初の3話でも、2016年に広まった陰謀論「ピザゲート」をモチーフにした事件や、黒人ヒーローを取り巻くステレオタイプ、保守層とリベラルの分断など、これでもかというほどアメリカ社会の闇を描いている。
そんな『ザ・ボーイズ』のヒットから、近年のヒットドラマには暗く重苦しい内容のものが多いことに気付かされる。また、以前は1話完結のシットコムや刑事ドラマが中心だったアメリカドラマだが、1シーズンでじっくりと1つの出来事を描く連続ドラマも増えている印象だ。
こうした変化はいつから起き始めたのだろうか。本稿では、海外ドラマのシリアス化、そして連続ドラマ化の変遷とその背景を追っていきたい。
『24 ‐Twenty Four‐』が変えたドラマのトレンド
2000年代まで、アメリカ本国のみならず日本でもヒットしたドラマには、1つの特徴があった。それは「1話完結」であるということだ。『X-ファイル』(1993年〜2002年)や『フレンズ』(1994年〜2004年)、『ER 緊急救命室』(1994年〜2009年)、『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998年〜2004年)、『ロー&オーダー』(1990年〜2010年)など、シリアス、コメディに限らず、同じ世界観のなかで、同じキャラクターたちが1話ごとにある出来事を経験していく。そしてストーリーが進むほどにキャラクターは成長し、ある者は去り、新しいキャラクターが増えたり、関係性が変わったりといった変化をしていく。基本的にこれらのドラマは日本のアニメで言うところの「日常系」に近いものがあり、少しずつ変化しながらも日々は淡々とつづいていく。
そんな流れを劇的に変えたのは、大ヒットドラマ『24 -TWENTY FOUR-』(2001年〜2014年/以下、『24』)だ。日本でも普段海外ドラマを観ない層でさえタイトルや主人公ジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)の名前くらいは知っているという驚異的なヒットとなった同作。『24』は全24話のなかで1話1時間のリアルタイムでストーリーが進行し、1シーズンかけて1日の出来事を描くという発明を生み出した。そのため1話ごとにオチがつくものではなく、視聴者に早く続きが観たいと思わせる力を得た。同作のヒットが今日のシリアルドラマ主流の海外ドラマシーンに影響を与えたことは疑いようがない。以降、『LOST』(2004年〜2010年)や『プリズン・ブレイク』(2005年〜2017年)など、各エピソードが緊密につながった作品がヒットしている。その傾向はその後も変わることなく、『ブレイキング・バッド』(2008年〜2013年)や『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年〜2019年)、『ウォーキング・デッド』(2010年〜2022年)など、日本でも注目を集めた作品にもそれが見て取れる。
しかし1話完結のドラマが完全になくなったわけではない。日本でリメイクもされた『グッド・ワイフ』(2009年~2016年)や『SUITS/スーツ』(2011年〜2019年)をはじめ、『Dr. HOUSE』(2004年~2012年)や『スーパーナチュラル』(2005年~2020年)、『メンタリスト』(2008年~2015年)など、1話完結の刑事ドラマやミステリーは相変わらず人気がある。また1話完結のドラマは長寿シリーズ化しやすく、2003年に放送が開始された『NCIS:ネイビー犯罪捜査班』は2024年現在もシリーズ継続中だし、2005年に放送が開始され、本国アメリカで一時社会現象となった『グレイズ・アナトミー』も継続中だ。
一方で、時代の変化に合わせてスタイルを変えたドラマもある。2005年から放送が開始され、2020年にシーズン15で幕を閉じた『クリミナル・マインド』は、もともと1話完結で、凶悪犯罪を追うFBI行動分析課の活躍を描いたドラマだった。しかし2022年にシーズン16として復活するにあたって、1シーズンかけて1つの事件を追うスタイルに変化している。