『虎に翼』直言は“優しすぎる”のが欠点? 朝ドラの歴代“ダメ親父”たちと比較する
ここ数年の朝ドラには“ダメ親父”と言い切れるほどの父親はいないが、まっすぐに良い父親であることも稀で、精神的に未熟さもあるキャラクターとして描かれることが多い。例えば、『おかえりモネ』(2021年度前期)で内野聖陽が演じた耕治は働く銀行でも出世頭で、気象予報士を目指すヒロイン・百音(清原果耶)を応援する頼もしく優しい父親だったが、過保護過ぎる一面も散見された。
憎み切れない愛され親父といえば、『ブギウギ』(2023年度後期)で柳葉敏郎が演じた梅吉も。夢見がちで、愛する妻・ツヤ(水川あさみ)を病気で失ってからは酒の量が増え、娘のスズ子(趣里)に迷惑をかけることもあった。けれど、スズ子を溺愛していて、のちに国民的歌手となる彼女の一番のファンだった梅吉。柳葉敏郎がチャーミングに演じてくれたからこそ、途中でダメ親父の片鱗を見せても梅吉は嫌われず、最後まで愛された。
『ブギウギ』梅吉、ついに『おちょやん』テルヲ化? “朝ドラダメ親父列伝”を紐解く
男やもめに蛆がわく。今の梅吉(柳葉敏郎)はそんな状態だ。いや、梅吉の場合は下宿先の女将・チズ(ふせえり)が身の回り世話をしてくれ…
もし朝ドラのダメ親父ランキングがあったなら、おそらく岡部たかし扮する直言はランク外。気が小さく妻・はる(石田ゆり子)に頭が上がらない直言は頼りないが、娘である寅子のことがかわいくてしょうがないという雰囲気が全身から漂っている。寅子がお見合いを蹴り、明律大学女子部に入学したいと言った時も家族の中でただ一人だけ応援してくれた。あの時代にしては珍しく理解ある良い父親だと思う。
けれど、その優しさが仇となることも。共亜事件で逮捕された時も冤罪にもかかわらず、検察から罪を認めればみんなが釈放され、家族もこれ以上苦しい思いをしなくても済むと言われ、自白してしまった直言。優三の死亡告知書を隠したことも正しい判断ではなかったかもしれないが、正しさが通用しない時代とも言える。
直道の戦死を告げた時に泣き崩れる花江(森田望智)を見て、直言は寅子に同じ思いをさせたくないと思ったのではないだろうか。自分の身体も弱っている今、娘の苦しみを一緒に受け止める自信がなかったのかもしれない。胸の痛みで身悶えしながらも、優三の死亡告知書を手にとった寅子に「見るんじゃない!」と必死で訴えかける壮絶な演技に岡部の真骨頂を見た。直言の優しさでもあり、弱さでもある嘘を寅子はどう受け止めるのだろうか。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK