『フォールアウト』が原作ゲームファンから支持された理由 風刺精神が活かされた内容に
その意味において、本シリーズを手がけたのが、同様の趣向を持ったドラマシリーズ『ウエストワールド』のリサ・ジョイ、ジョナサン・ノーランらであることは大きいはずである。荒廃した世界観と、その世界を取り巻くおそろしい真相が明らかになっていく作品構造は、まさに本シリーズにも共通しているといえるのである。
エピソード3つ分を監督もしているジョナサン・ノーランは、兄のクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト ライジング』(2012年)の脚本を手がけている時期に、じつは『フォールアウト3』をプレイしていて、バイオレンスや皮肉な風刺などの要素が見事にまとめられた内容に魅了されたという。そして、それが『ダークナイト ライジング』の執筆に遅れが生じた一因かもしれないと述懐しているのだ。それほどのめり込んでいたのだとすれば、本シリーズはまさに原作の魅力を理解した人物によって実写化されたことになる(※)
本シリーズは、そんな製作者らによって、やはりゲームにも色濃く存在していた、風刺精神が強く活かされた内容になった。その一つが、未来に起こり得る核戦争への恐怖である。最近、現実でも世界各地で戦争が勃発している状況にあるように、核兵器使用の不安が全世界的に高まっているのは確かなことだ。本シリーズは、そのような視聴者の心情に合致する題材を提供していることになる。そして、新型コロナウイルスのパンデミックによる巣ごもり生活の経験が、描かれるVaultの生活と外界の脅威にシンパシーを与えてもいるはずである。
また、そこに放射能汚染への懸念が投影されていることも間違いない。兵器として原爆を使用した負の歴史を持つアメリカの作品として、ミュータントや被ばくした人間への影響をホラーやサスペンスとして描くというのは、不謹慎に感じる面はある一方で、核使用の恐ろしさと後世まで続く環境や人体への影響を周知するという意味では、反核への考えの周知に一役買っているという見方もあるかもしれない。
さらに無視できないのが、本シリーズの政治的な面であろう。物語が描いている、多様性を尊重して他者への共感を大事にする穏健的な考え方と、自己責任を基本とした考え方で武力を保持して身を守ろうとする過激な考え方というのは、同様のイデオロギーに二分された現実のアメリカの姿そのものであるように感じられるのだ。
本シリーズの風刺は、それだけにとどまらない。それら政治思想を包含する国家という概念に挑戦するように存在するのが、複数の大企業が構成する経済界であることが、ザ・グールの過去の回想のなかで示されていくのである。つまり、考えの異なる人々も、その考えが反映された政府も、そして争いの間にも、大きな経済の流れのなかにあり、支配されているというのである。そんな、ある種のシニカルな見方が、本シリーズに底流する皮肉だと考えられる。
1シーズンの結末で画面に映し出されるのは、アメリカンドリームの象徴である、ハリウッドヒルズに設置された有名な「ハリウッドサイン」だ。そして、そこには作中の大企業「ヌカコーラ」の大きな看板も併設されている。これもまた、それが指し示している商業主義が、アメリカに大きな影響を及ぼしているという表現となっている。ここでは、ショービジネスの一形態である本シリーズすらも、そんな商業主義の支配下にあるという、自虐的ともいえるユーモアを提供しているのだ。
重要なのは、世界の背後にあるものを意識すること、自分たちの生きている環境や社会そのものへの疑問や批判精神を失わないことなのではないか。本シリーズ『フォールアウト』は、そんなことをわれわれに語りかけていると思えるのである。
参照
※ https://www.eurogamer.net/fallout-tv-producer-jonathan-nolan-says-playing-the-games-disrupted-writing-the-dark-knight-rises
■配信情報
『フォールアウト』
Prime Videoにて独占配信中
©2024 Amazon Content Services LLC