『デデデデ』あのによる完璧な演技の衝撃 幾田りらと“ぶつかり合う”小学生パートは必見

幾田りら演じる門出の凄みを感じる“豹変ぶり”

 一方の幾田りらは、すでに声優として細田守監督の『竜とそばかすの姫』(2021年)に出演済み。ヒロインのすずをネットの世界で有名人にする活動に勤しむヒロちゃんという役を演じて、いろいろと悪巧みをする毒舌家の女子高生を見せてくれている。これがなかなかのハマり役で、すでにYOASOBIのメンバーとして「夜に駆ける」を歌い、2020年末のNHK紅白歌合戦に出場していたシンガーとは違った演技巧者ぶりを感じさせた。

 そして、『デデデデ 前章』で主役のひとりの門出を演じることに。TAAF2024での黒川アニメーションディレクターによれば、オーディションではなく最初から演じてほしいとオファーしたそうで、演じられるといった見込みがスタッフにも、原作者にもあったのだろう。その結果はあのと同様、眼鏡姿で純朴そうで“おんたん”に振り回されているように見えて、自分を曲げない強さを持った少女をきっちり演じきっている。

 門出もまた小学生のパートでは、高校生の時とは違った複雑な演技を求められるが、この時の豹変ぶりは観ていて心が冷える。そして、演じる幾田りらの凄みを突きつけられる。ある意味で究極の演技がぶつかり合ったとも言える小学生のパートは、2人でいっしょに収録したとのこと。その演技に合わせるように絵の方も描いていったそうで、仕草から表情から役者が演じているような映像になっている。小学生ならではの邪悪な言動に溢れたシーンがあって、観ていて辛いパートだが、アニメとしては見どころたっぷりだ。

種﨑敦美×内山昂輝、諏訪部順一、そしてTARAKOさんの演技も味わいたい

 声優でもなく俳優でもない2人の凄い演技を、周囲で支える声優陣も同様に凄い。門出や“おんたん”のクラスメートで、いっしょに活動している栗原キホを演じているのは種﨑敦美で、訥々と喋る『葬送のフリーレン』のフリーレンとも、幼さを炸裂させる『SPY×FAMILY』のアーニャとも違う、ギャルめいた女子高生の声を聞かせてくれる。そのキホが告白する小比類巻健一は、『ハイキュー!』の月島蛍役などイケメン系の演技が人気の内山昂輝が演じていて、不穏な空気の中で徐々に異常さを増していく高校生を見せてくれる。

 素晴らしいのは諏訪部順一。“おんたん”の兄のひろし役だが、元は相当なイケメンだったものがニートとしてネット監視と自宅警備に励んでいるうちに太り、顔もふくらんで二重顎になってしまうキャラクターを、それでもイケメン感をたっぷりと残して演じ、何か底知れない人物だと感じさせる。目下大人気の津田健次郎も出演していて、こちらは門出の父親で漫画編集者のノブオをうらぶれた感じも含めて出し切っている。

 そしてTARAKOさん。『ちびまる子ちゃん』のまる子役で知られる声優で、3月4日に亡くなったベテラン声優が、作中作『イソベやん』のデベ子として出演して、情けなさを感じさせる女の子を他に変えがたい声と演技によって見せてくれる。TAAF2024のワールドプレミア上映で、黒川アニメーションディレクターがアフレコ時を振り返って「本当にエネルギッシュでパワフルなお芝居をしていただきました」と話していた。偲びつつ聞き入ろう。

 そして感じよう。デベ子の立ち位置が重なる“おんたん”を演じるあのと声のトーンが似ていることを。『ちびまる子ちゃん』のまる子もあのが演じたら。そんなことも思わされる作品だ。

■公開情報
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』
前章:全国公開中、後章:5月24日(金)公開
声の出演:幾田りら、あの、種﨑敦美、島袋美由利、大木咲絵子、和氣あず未、白石涼子、入野自由、内山昂輝、坂泰斗、諏訪部順一、津田健次郎
原作:浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(小学館『ビッグスピリッツコミックス』刊)
監督:黒川智之
シリーズ構成・脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン・総作画監督:伊東伸高
美術監督:西村美香
音楽:梅林太郎
アニメーション制作:Production +h.
製作:DeDeDeDe Committee
配給:ギャガ
©浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee
公式サイト:dededede.jp
公式X(旧Twitter):@DEDEDEDEanime

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