藤本タツキ『ルックバック』アニメ化のポイントは? 絶対に外せない“静かな情熱”の表現
『ルックバック』を読むと、藤本が「創作すること」というテーマを掘り下げるため、尋常ではない熱量を注いだことが伝わってくる。すなわち同作の本質を損ねることなくアニメ化するためには、この情熱を再現することが必要不可欠だろう。
一般的にアニメは集団制作されるものなので、1人の作者が手掛けるマンガとは違って、クリエイターの情熱をダイレクトに伝えることが難しい。しかしその点でいえば、アニメ版『ルックバック』には期待したくなる要素も存在する。
同アニメでは、オリジナルアニメ『フリップフラッパーズ』の監督や、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』『借りぐらしのアリエッティ』などの原画で有名な押山清高が監督を務める。そして藤本は「ながやまこはる」名義で運用しているXにて、アニメ版『ルックバック』について「絵の凄く上手い監督がほぼ一人で全部描いているらしいので恐ろしいので楽しみです」と語っていた。
ルックバックがアニメ化するのでよろしくお願いいたします。絵の凄く上手い監督がほぼ一人で全部描いているらしいので恐ろしいので楽しみです。
— ながやま こはる (@nagayama_koharu) February 14, 2024
TVアニメならまだしも、劇場アニメを“ほぼ1人原画”で制作するというのはかなり異例のことであり、それだけ押山監督が作品に真摯に向き合っていることが分かる。原作に劣らない熱量で「創作すること」というテーマを描いてくれることを期待せざるを得ない。
その一方で、『ルックバック』は“静けさ”を特徴とした作品でもあった。大抵のマンガでは動揺した時に「ドキドキ」、雨が降った時に「ザーザー」など、オノマトペが使用されるものだが、同作ではそうした表現が一切用いられていない。さらには登場人物の内面を示すモノローグなども排除されており、徹底的に“絵や演出だけで読者に伝える”という意志が貫かれている。
しかもそれでいて、読者が主人公たちの創作欲求や感情の爆発を胸に迫るように体験させられる……というのが、同作のもっとも見事な点だと言える。圧倒的な演出力がなければ、到底実現できない離れ業だ。この難しい表現をいかにしてアニメに落とし込むのか、制作陣はその手腕を試されることになるだろう。
「情熱」と「静けさ」という相反する要素で構成された1本の読み切りマンガ。アニメ化によって新たな傑作が世に生み出されることを期待するばかりだ。
参照
https://realsound.jp/movie/2024/02/post-1572627.html
■公開情報
『ルックバック』
6月28日(金)全国公開
原作:藤本タツキ『ルックバック』(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・キャラクターデザイン:押山清高
アニメーション制作:スタジオドリアン
配給:エイベックス・ピクチャーズ
©藤本タツキ/集英社©2024「ルックバック」製作委員会
公式サイト:lookback-anime.com
公式X(旧Twitter):@lookback_anime