『お別れホスピタル』『グレイトギフト』『院内警察』など、“複雑化”する医療ドラマが急増
『グレイトギフト』
また、テレビ朝日系で木曜21時から放送されている『グレイトギフト』(テレビ朝日系)は「ギフト」と呼ばれる殺人球菌による連続殺人事件が描かれ、そこに名作医療ドラマ『白い巨塔』のような、医師たちの権力争いが絡むサスペンスドラマだ。
新型コロナウイルスの世界的流行を経て我々が抱えている未知の感染症に対する不安を物語に取り込んだ医療ドラマで、脚本は『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)を手がけた黒岩勉が担当。
極限状態に置かれた主人公が次々とギリギリの選択を迫られて、機器的状況を乗り込めていくリアルタイムサスペンスが黒岩作品の魅力だ。本作では殺人球菌を発見して培養してしまった病理医の藤巻達臣(反町隆史)が理事長の座を狙う白鳥稔(佐々木蔵之介)に翻弄されて疲弊していく様子が描かれる。
藤巻は保身を図りつつも、悪人に徹することもできずにいる中年男で、中途半端な立ち位置ゆえにズルズルと極限状態に追い込まれていく。シリアスな展開が続くからこそ、不条理コメディを観ているようなおかしさもある。
『お別れホスピタル』
最後に紹介したいのが、NHKの土曜ドラマ(土曜22時放送)で放送されている『お別れホスピタル』だ。
本作はターミナルケア(終末期医療)と呼ばれる、延命治療を諦め、患者が自分らしく最後を迎えられるようにサポートする療養病練に勤務する看護師の辺見歩(岸井ゆきの)の視点から医療とは何かが描かれる。
原作は沖田×華の同名漫画(小学館)で、脚本はNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』の安達奈緒子が担当。 沖田の漫画『透明なゆりかご 産婦人科医院 看護師見習い日記』(講談社)をドラマ化した『透明なゆりかご』の制作チームが、再び沖田の医療漫画をドラマ化した本作は、すぐ身近に存在する患者の死が次々と映し出されていく。
医療従事者が患者を看取る姿を描くことで「生きる」ことの意味を問いかける本作のスタンスは、スーパードクターが患者を救う姿を描いてきた医療ドラマの王道とは真逆だが、コロナ禍を経たことで、親しい人の死がより身近に感じるようになった私たちには、本作のような死と正面から向き合う医療ドラマが必要なのかもしれない。
■放送情報
土曜ドラマ『お別れホスピタル』
NHK総合にて、毎週土曜22:00〜22:49放送【全4話】
出演:岸井ゆきの、松山ケンイチほか
原作:沖田×華
脚本:安達奈緒子
音楽:清水靖晃
制作統括:松川博敬、小松昌代
演出:柴田岳志、笠浦友愛
写真提供=NHK