『ゴールデンカムイ』は世界にも通用するアクション映画 “実写化俳優”山﨑賢人の集大成に
少しずつだが、マンガ原作の実写化アクション映画はそれほど不安視されなくなりつつあるように思う。とはいえ、やはり『ゴールデンカムイ』が実写映画化されるとなればやはり不安がつきまとってしまう。これはもうどうしようもないオタク心というやつだ。しかし、その不安は映画が始まってしまえばあらかた払拭されてしまった。さらに言えば凄惨な二〇三高地戦を再現したアクションが始まった瞬間に。もっと正確に言えば、山﨑賢人演じる杉元佐一が歯を剥き出しにしながら敵兵を殺した瞬間に、「この映画は大丈夫だろう」……そう思った。
原作『ゴールデンカムイ』は「和風闇鍋ウエスタン」という惹句が代表するように、かなり複雑怪奇な作品だ。アイヌの金塊を巡る争奪戦を中心に据え、アイヌ文化の知識をベースに、「飯、筋肉、変態」といった濃すぎる調味料を容赦なく振りかけた作品である。実写化の際に越えるべきハードルが高いことは言うまでもないだろう。その中でも自分が『ゴールデンカムイ』の魅力の一つだと思っているのが原作にある暴力のカジュアルさだ。原作では一度暴力シーンが始まると手足はバラバラとなり臓物がまろび出たりするのだが、それ自体をいやらしく描いていない。「腹を裂いたら臓物が出る」という自然の在り方をそのまま描いてるとしか言いようのない、そんなカジュアルさがとても好きなのだ。
そういうわけなので実写化にあたってバイオレンスとアクションがどうなるかは大いに注目した。なにかと実写化にあたってナーフされがちなのは年齢制限を跳ね上げることでお馴染みのバイオレンスなのだから。とはいえ、アクションに関してはそれほど不安に思っていなかった。なにせ『HiGH&LOW』シリーズで毎度常軌を逸した邦画最高峰のアクションを実現してきた久保茂昭が監督を務め、実写化映画の名手・佐藤信介と『アイアムアヒーロー』(2015年)や『キングダム』(2019年)などで度々タッグを組んできた下村勇二がアクション監督を務めるのだから。
というわけで冒頭に書いた通り、二〇三高地戦を観た瞬間に不安は払拭された。そして山﨑賢人が歯を剥き出した瞬間に。正直な話、杉元佐一を演じるにあたり、山﨑賢人は少しだけイメージが合わないと思っていた。その安定した演技力は説得力を与え、コメディシーンは活き活きとしていたものの、やはり時々原作の杉元佐一とイメージが時折ぶれたりしたのが本音だ。そんな山﨑賢人に対して「完璧に杉元佐一だ!」と興奮したのがアクションシーンで歯を剝き出しにした瞬間である。
原作でも時折杉元がビーバーみたいな歯の剥き出し方をするシーンが(杉元に限らず)数多く存在するが、山﨑賢人の歯の剝き出し方が完全に原作のそれなのだ。『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』(ホーム社/服部昇大著)で邦キチが実写版『るろうに剣心』(2012年)がヒットした要因のひとつとして「佐藤健が完全に(剣心の)「おろ?」を自分のモノにしている」ということを挙げていたが、自分は山﨑賢人の歯の剝き出し方にそれを感じた。あれは佐藤健における「おろ?」なのだと。
山﨑賢人はともすれば変顔になりかねないコミック的な歯の剥き出し方を完全にモノにしている。それも激しいアクションシーンのさなかで。これが一度とならず数回出てくるので、山﨑賢人は意識して杉元の歯の剝き出し方をモノにしていることがわかる。無論杉元の歯は剣心の「おろ?」ほどメジャーな扱われ方をしていないが、それだけ山﨑賢人が原作を読み込んだことの証左だろう。
というわけで「イメージと合わない」と言っておきながら山﨑賢人を絶賛させてもらうと、山﨑賢人は歯の剝き出し方をはじめとしたアクションシーンでの「杉元佐一」の説得力がとてもすごい。本作のビジュアルが出た時に「衣装が綺麗すぎる」といった批判も出たが、実際に動いている姿を観るとそれほど気にならないし、それがアクションシーンとなるとより杉元佐一の実在感が増す。それだけでなく、動きのキレも良いので山﨑賢人は総合的にアクションスキルが高いことがわかる。