『不適切にもほどがある!』宮藤官九郎が描く正しい“多様性” まさかのミュージカル展開に

『不適切に~』宮藤官九郎脚本の魅力が存分に

 テレビ画面からも副流煙が漂ってくるのではないかと思うくらい喫煙シーン満載で始まった金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)。

 放送中に「この作品には、不適切な台詞や喫煙シーンが含まれています……」とのテロップが2回も表示されるほど気を使っているところが、まさに令和のドラマといったところ。そんな“お断り”が提示されているにも関わらず、見ていてハラハラしてしまうのは、すっかりこの時代の人間なのだと痛感した。

 舞台は1986年。「地獄のオガワ」の異名を持つ中学教師の小川市郎(阿部サダヲ)は、絵に描いたような“昭和のおじさん”として生きていた。その言動たるや、昭和を生きているのだから当たり前なのだけれど、その時代を知らない人からしたらもはや都市伝説並の“昭和っぷり”だ。職員室でも公共交通機関でもタバコをスパスパ吸い、顧問を務める野球部の練習中は水を飲むのを禁じる。理由は、根拠を伴わない根性論から。そして、ミスをしたら連帯責任として全員にケツバットを振りかざす。さらに、実の子や生徒たちへの発言もかなり荒々しい。「ブス」「男のくせに」「もやし野郎」と、こうして書き並べていてもヒヤヒヤするものばかりだ。

 そんな市郎が、まさかの2024年にタイムスリップするところから物語が動き出す。当然のように乗り込んだバスの中でタバコを吸いはじめ、乗り合わせた女子高生に「パンツ見えそうなスカート履いてさ、痴漢してくださいって言ってるようなもんだぜ」と言い放つ。だが、そのバスがなんとタイムマシンだったのだ。

 もちろん2024年の世の中でそんな言動をする市郎は、すぐさま録画されてSNSで拡散されてしまう。そのまま大炎上するのだが、市郎はスマホを知らないからお構いなし。そんな市郎を見ていると、38年という年月でいかに社会が変わったのかを思い知らされる。同時に、この38年でそれだけの変化に順応しようとしてきた人々が多くいたということも。

 より良い社会になるようにと、私たちは日々アップデートを試みている。だが、市郎から見た2024年は「こんな時代にするために俺たち頑張ってはたらいてるわけじゃねえよ」と言いたくなるような未来だという。それが悔しくもあり、どこか納得してしまう部分があるのも、ちょっぴり悲しく思った。たしかに、市郎の価値観は時代遅れかもしれない。だが、その考えの全てが「不適切」というわけではないと言いたくなる気持ちもある。自分が幸せだと思ったときには「幸せです」と言うことの何が悪いのか、応援したい人に「頑張れ」と言って何がいけないのか。もちろんハラスメントはなくなるべきものだけれど、人と人がまっすぐに思いを伝え合うことそのものに躊躇してしまう時代の風潮を「気持ち悪い」と一蹴する。

 ときには「拳と拳で語り合う」くらいの気持ちでぶつかり合うべきだと主張する市郎。それこそ“時代遅れな”と言いたくなったものの、市郎とは逆に2024年から1986年にタイムスリップした中学2年生の向坂キヨシ(坂元愛登)が好きな子を巡って喧嘩をし、ボロボロになりながらも誇らしげな表情を浮かべているのを見ると、昭和ならではの良さもたしかにあったのかもしれないとも思えてくる。

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