『たりないふたり』仕掛け人・安島隆が語る裏話 山里亮太&若林正恭が辿り着いた景色とは

『たりないふたり』安島隆が明かす制作秘話

 髙橋海人(King & Prince)と森本慎太郎(SixTONES)がW主演を務めたドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ系)のBlu-ray&DVD-BOXが、12月20日に発売された。

 若林正恭(オードリー)と山里亮太(南海キャンディーズ)の半生を描いた本作は、キャストの演技はもちろん、制作陣から溢れ出る若林&山里への愛で大きな話題を呼んだ。そんなドラマの冒頭シーンは2人のユニット「たりないふたり」の漫才から始まるーー。

 山里と若林が出会うきっかけとなった同ユニットは、社交性や恋愛がたりない2人が、自身のコンプレックスや処世術を語り、それを元にした漫才を披露していくスタイルのライブとしてスタート。2012年に番組化され、深夜の放送ながら瞬く間に人気となった。2021年、ドラマの冒頭シーンでも描かれたラストライブ『明日のたりないふたり』は、配信で5万5000人以上が視聴した。

 今回、ドラマがパッケージ化されるにあたり、改めて『たりないふたり』を深掘りすることに。2人を引き合わせ、番組を世に放った仕掛け人・安島隆にインタビューを行い、当時のことを語ってもらった。

山里亮太&若林正恭が到達した“誰も見たことない景色”

安島隆

ーードラマ放送後、久しぶりに『たりないふたり』のDVDを観たのですが、今観ても面白いし、画期的な番組だなと感じました。安島さんにとって印象的な回はありますか?

安島隆(以下、安島):初回ですかね。当時は、良くも悪くもテレビ番組を作っている感覚があまりなく、ライブをやっているような感覚でした。(観覧型の番組のため)目の前のお客さんに対して「本当にウケるのかな?」「喜んでもらえるかな?」という思いがすごくあったんです。初回は「社交性がたりない」がテーマでした。2人がパソコンの前に座ってチャットをして、その後、飲み会の逃げ方などについてトークして、最後にそれを漫才に落とし込む……と、ライブでやってきたことがワッとウケたときに「これはいけるんじゃないか」と思いました。目の前のお客さんに笑ってもらうこと、共感してもらうことをブレずにやっていけば、きっとうまくいくのかな、最後までやれるのかな、と思ったのが初回でした。

ーー「テレビ」「恋愛」など、何かが足りない2人の心の叫びが人気を博し、2014年にはシーズン2となる『もっとたりないふたり』が放送されました。第10話、第11話の「もっとお互いの理解がたりない」では、ブレイク前の2人のネタ帳が公開されましたよね。下積み時代のドロドロとした胸のうちも書かれていましたが、安島さんはどうご覧になっていたんですか?

安島:その企画を思いついたとき、2人にノートを持ってきてもらったんですが、あまりちゃんと見られなくて……。1ページ1ページが重いんですよね。「見ていいのかな」と思っちゃって。僕は詳しく見ずに、2人にノートを交換してもらいました。この番組で、山ちゃんの“それ”を見る資格があるのは若林くんしかいないし、若林くんの“それ”を見る資格は山ちゃんにしかない気がしたんです。いざ本番が始まってノートの中身を知ると、改めて2人って天才だなと思いました。僕らも生きていて、階段を登るような気持ちでゴールを目指さなきゃいけない局面があるじゃないですか。僕の場合、「この階段は登れないな」と思ったら、別の階段を探して、別のゴールを探るタイプなんですが、彼らはそれをしない。「ここだ」と思ったら何回でも登って、転がって、落ちてを繰り返せる人たちなんです。普通だったら諦めちゃうのに、愚直にそこに向かって、最後にはちゃんと登りきるし、誰も見たことない景色までたどり着く。芸人さんやクリエイターで、彼らのように自分を突き止めて、最後まで登り切る方もいますが、2人はその中でも、他の方とはまた違うゴールまで登っちゃうんですよね。

ーー「漫才」や「バラエティー」などいろいろな階段があると思いますが、「違うところまで到達した」というのは、具体的にどういうところで感じたのでしょうか?

安島:最初は「売れたい」や「ウケたい」から始まっていたと思うんですけど、そこからどんどん登って「自分は何者なのか」という哲学的なところまで行ったというか。言葉を換えると「“自分だけができる漫才”ってどういう漫才なのか」をゴールにして、実際そこまで辿りついたんだと思います。

ーー確かに南海キャンディーズやオードリーの漫才は唯一無二ですもんね。そんな思いがこもったノートを持ってきた山里さんや若林さんもすごいと思いました。

安島:そうですよね。ネタ帳も「若林くんだったら分かってくれる」、「山ちゃんだったら分かってくれる」という思いがあっただろうし、「イジって絶対に面白くしてくれる」という信頼感もあるからこそやれた企画だと思います。

ーーそれぞれのレギュラー番組終了後に『たりふた SUMMER JAM’12』、『たりふたSUMMER JAM’14~山里関節祭り~』といったイベントも開催されました。こちらも改めて観ると、完成度の高いライブだなと思うのですが、印象的な出来事はありますか?

安島:『SUMMER JAM’12』は初日が終わったあと、山ちゃんが「出来が良くなかった」と反省していたんです。山ちゃんともよく話すんですけど、『たりないふたり』って今考えるとすごくシビアな構成で、最後の漫才に至るまでの企画は、2人がネタを持ち寄る形なので、会場のウケ方の違いも感じる訳です。僕から見たら二人とも同じようにウケていたと思うんですが、山ちゃんは自分の方がウケていないと感じたみたいなんです。初日が終わって軽い打ち上げも兼ねて、会場の中野サンプラザから、よく若林くんと行っていた幡ヶ谷のカフェに誘いました。構成のサトミツ(佐藤満春)もいたんですけど、その店は彼も知っているので、山ちゃんだけアウェイの状態。しかも、みんながアイスティーとかを頼む中、腹が減った僕が空気を読まずに、ジャンバラヤを頼んじゃって。山ちゃんとしては、さっさと帰宅して、自分のネタをブラッシュアップしたかったはずなんですよね。でも出てくるのが遅いジャンバラヤを僕が頼んじゃったもんだから、もう明らかにイライラしていました(笑)。僕も途中で気づいて、信じられないスピードで全部食べて、早々に退散したっていう思い出があります(笑)。これって、山ちゃんにとって若林くんが好敵手であることの表れですよね。

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