実写版『幽☆遊☆白書』は成功と言えるのか? 『ONE PIECE』との違いなどから検証

実写版『幽☆遊☆白書』は成功と言えるのか?

 本シリーズが『ONE PIECE』と異なるのは、5エピソードという、比較的コンパクトな枠に収められたという点だ。原作の多くのエピソードを大胆に取捨選択し、主人公・浦飯幽助(北村匠海)の交通事故による死から、戸愚呂兄弟との熾烈な戦いが描かれる「暗黒武術会編」までの内容を、ぎゅぎゅっと凝縮している。賛否が生まれるとすれば、むしろこのあたりなのではないか。原作を整理して、よく短い時間に詰め込んだと感じられると同時に、数々の魅力的な設定や物語展開がスキップされてしまったことには残念さも感じるのである。

 幻海(梶芽衣子)に起こる悲劇や、それにともなう幽助たちの葛藤は、互いの関係を描くエピソードの多くが割愛されてしまったことで、かなり淡白な印象になってしまったと感じられる。なぜ玄海の存在がこれほどまでに重いのか、なぜ悪人である戸愚呂弟(綾野剛)の背景を描く必要があるのかが、本シリーズでは分かりづらくなってしまっているのだ。

 また、最終決戦の場が暗黒武術会ではなくなることで、試合を観戦するオーディエンスらの感想もなくなり、戦闘時のキャラクターのセリフがリアリティの観点から除外されたことで、解説が省かれてしまったところも惜しい部分だ。飛影(本郷奏多)の「邪王炎殺黒龍波」や、蔵馬(志尊淳)の操る魔界の植物の描写などは、原作でも大きな見どころとなっていたため、テンションが上がる箇所ではあるのだが、その威力がどれほどのものなのか、その技にどんな背景があるのか、そして使うことでどんな代償を払うのかが説明されないために、原作やアニメ版を知らなければ、単に派手な必殺技に過ぎないと思われてしまう懸念がある。TVアニメ版が同じくNetflixで配信されているので、そちらを観ればいいという話でもあるのだが……。

 冨樫作品の醍醐味は、『HUNTER×HUNTER』同様、病的とすらいえるような異様な設定や、意外な展開の数々にある。いかにも『週刊少年ジャンプ』という要素に溢れながら、読者の思うような物語の流れを崩していくのである。そんな天邪鬼な作家性が本格的に発揮され始めたのが、「暗黒武術会編」の前後あたりからだった。トーナメント戦といえば、少年漫画に人気の趣向ではあるが、そこに少年漫画のお約束に対する一種の批評性が込められることで、これまでにない刺激的な内容に生まれ変わっているのである。この最新形が、『HUNTER×HUNTER』における、戦術の複雑さが極まったヒソカ対クロロ戦である。原作を知っているからこそ、このような冨樫作品の魅力が初見の視聴者に伝わるのか、やきもきしてしまうところだ。

 本シリーズは、どちらかといえば王道的な要素をピックアップしているため、このような醍醐味の部分が味わいにくいのは確かだろう。とはいえ、原作やTVアニメ版をいまの読者や視聴者が鑑賞するとき、まだるっこしいと感じられる部分があることも事実。「暗黒武術会編」の内容を知っている視聴者からすれば、早く幽助たちの限界バトルが観たいと思ってしまうのではないか。その意味では、視聴者の要望を叶えるテンポアップだったのだと、好意的に捉えることもできる。本シリーズが全世界で視聴数を稼ぎ、第2シーズンが製作されれば、「魔界の扉編(仙水編)」が描かれることになるだろう。そこでは否応なく冨樫作品の醍醐味を発揮せざるを得なくなるはずである。原作ファンは、とくにそこに期待したいところだ。

 もう一つ、重要なのはテーマについてである。週刊で連載されるストーリー漫画、とくに毎回読者の人気投票が去就を決めてしまう『週刊少年ジャンプ』においては、どうしても面白さの方を優先してしまい、全体に通底するテーマは、描きながら探っていく場合も少なくない。その点、後から製作される映像化作品は、それを計画的に設定できるという利点がある。例えば『ONE PIECE』のドラマ版では、「海賊王」を目指す主人公のルフィと、「海軍」に入る夢を持った少年が対照的な存在として描かれるという趣向が用意されている。これによって、海賊という存在の是非や、ルフィがどんな海賊になっていきたいのかが、より明確なものとしてあぶり出されることになる。

 実写ドラマ版『幽☆遊☆白書』では、とくに蔵馬が人間界での母親を助けようとする部分、飛影が妹を助けようとする部分が強調されている。その一方で、原作同様に邪悪な人間がいることも示唆されるのだ。この対比をより明確化し、他の要素を絞ったことで、幽助が持っていた異なる種族への偏見が是正されていくという点が印象的なものとなっている。

 現実の世界では、人種や国籍など、人間の外形的な部分によって分断が起こるケースが少なくない。戦争や紛争、差別や人権蹂躙は、歪んだ先入観や思い込みによって発生しがちだ。その意味では、人間対妖怪の構図になるのではなく、種族の枠を超えて他人のために何かをやれる者たちが共闘するという本シリーズの考え方こそ、現在必要な価値観なのだと思える。原作に確かに描かれていた部分を前面に出し、一つの大きなテーマを持った物語に昇華させたのは、評価できる部分だといえよう。

 『ONE PIECE』や『幽☆遊☆白書』が実写作品としての質の高さを担保して見せたことで、さまざまな可能性が広がったことも事実だろう。予算と時間さえあれば、現実ばなれした内容を持つことで映像化が困難だと思われていた、日本の膨大な数の漫画作品やオリジナルアニメーション、その他の創作物の映像化が企画として現実的に検討できるようになったのである。映画界では、アメコミヒーロー大作の流行の次に何が来るのかが注目されているところだ。そこに、一部のファンからは不評を買っていた日本の漫画、アニメの映像化作品が割って入るのも夢ではないのではないだろうか。

■配信情報
Netflixシリーズ『幽☆遊☆白書』
Netflixにて配信中
出演:北村匠海、志尊淳、本郷奏多、上杉柊平、白石聖、古川琴音、見上愛、清水尋也、町田啓太、梶芽衣子、滝藤賢一、稲垣吾郎、綾野剛
原作:冨樫義博『幽☆遊☆白書』(ジャンプ・コミックス刊)
監督:月川翔
脚本:三嶋龍朗
VFXスーパーバイザー:坂口亮(Scanline VFX)
エグゼクティブ・プロデューサー:坂本和隆
プロデューサー:森井輝
制作プロダクション:ROBOT
企画・製作:Netflix

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる