『EVOL(イーヴォー)』は超能力版『俺たちに明日はない』だ 伊礼姫奈の鋭い目つきが絶品
一度でも「こんな世界、なくなってしまえばいい」と思ったことがある方は、『EVOL(イーヴォー)~しょぼ能力で、正義を滅ぼせ。~』を観るべきだ。DMM TVオリジナルドラマとして、順次配信されている。筆者は、10代の頃にこの作品に出会いたかった。
第1話を観た時の衝撃は、筆者が10代の頃に初めてTHE BLUE HEARTSの楽曲を聴いた時と同種のものだ。原作者のカネコアツシが、THE BLUE HEARTSに影響を受けたかは定かではない。だが筆者は、甲本ヒロトが身をよじりながら〈終わらない歌を歌おう 全てのクズ共のために〉と歌っていた姿を思い出す。この『EVOL(イーヴォー)』という作品も、「すべてのクズ共のため」に向けられたものだ。
この場合の「クズ」という呼称を、「マイノリティ」と言い換えた方が、しっくり来るかもしれない。ほんのちょっと「平均」からズレてしまっただけで「異物=クズ」として扱われるのが、この世界だ。「平均」の住民たちは、自分たちが「平均」であることを死守するために、全力で排除しに来る。
この、とにかく生きづらい世界から逃れようと3人の中学生が自死を選んだことから、物語は始まる。
一命を取りとめた3人の主人公たちは、精神病院の閉鎖病棟で出会う。そして、脱走する。どうやって? 死に損なった3人は、なぜか特殊能力を身につけていたのだ。極めてしょぼい形で。
ノゾミ(青木柚)は、なんにでも直径1センチ、深さ3センチの穴を開けることができる。
サクラ(服部樹咲)は、5センチだけ宙に浮き、飛ぶことができる。
アカリ(伊礼姫奈)は、ライターぐらいの炎を、出すことができる。
この作品の舞台となる世界は、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)みたいな“正義のヒーロー”が、実際に存在する世界だ。だが彼らが守るのは、「支配者と、従順な市民たち」だけである。「クズども」は存在しないようなものだ。自警団の面々が「社会からはみ出した奴には、何をしたっていいんだ」という言葉を吐く。それが、「平均」にしがみつく人間たちの本音だ。
そんな世界に向かって、ノゾミが慟哭する。
「ヒーローなんてごめんだ。こんなクソみたいな世界を救うなんて。だったら、何もかもぶっ壊したい」
「ワルモノになりたい」
中二病の極みだが、まさに彼らは中学生なので、その年代のその思考は圧倒的に正しい。道義的な体裁などかなぐり捨てて、観てるこちらも彼らを全面的に支持したくなる。「こんな世の中、ぶち壊してしまってくれ」と思う。
彼らの特殊能力は、この世界に風穴を開け、この世界を焼き払い、そしてこの世界から飛び立つためのものだ。