『どうする家康』は脚本家・古沢良太の大転換に “偉大なる凡庸”として徳川秀忠を描く意義
紆余曲折の末、家康は関ヶ原の戦いに勝利し、天下統一を成し遂げる。しかし、白兎と言われた頃の優しさを彼は失い、老獪な古狸に成り果ててしまった。
しかし家康は、息子の徳川秀忠(森崎ウィン)に自分が失った弱さと優しさを見出し、彼に跡を継がせることで戦のない平和な世を作ろうとする。
後継に選ばれたことに戸惑う秀忠に対して、家臣の本田正信(松山ケンイチ)は、全てが人並みで「偉大なる凡庸」だからこそ、主君にふさわしいと言う。
この「偉大なる凡庸」という言葉を聞いた時は興奮した。これまでトリックスターに翻弄される愚鈍な善人を辛辣に描いてきた古沢が、本作では彼らの可能性を模索し「偉大なる凡庸」という概念にたどり着いたのだ。これは作家性の大転換である。
『どうする家康』は、次から次へと押し寄せてくる困難に対し、家康が何を選択するかが見せ場となっている。これは2016年に放送された真田信繁(堺雅人)を主人公に真田家のサバイバルを描いた三谷幸喜脚本のNHK大河ドラマ『真田丸』と近い構造だ。
同じ時代を舞台にしていることもあってか、『真田丸』と『どうする家康』は表裏一体の物語となっている。『真田丸』のラストは、信繁と家康が対峙する「大坂の陣」で、星野源が演じる徳川秀忠が二人の邂逅をぶち壊す場面が印象的だった、あそこで秀忠が見せた勝ち誇った表情は、まさに「偉大なる凡庸」そのもので『どうする家康』を踏まえた上で、改めて『真田丸』のラストを観ると、幸村と家康が対峙する場面で、何が描かれていたかが、よく理解できる。
残り数話となった『どうする家康』だが、『真田丸』では時代に取り残された者たちの悲哀が描かれた「大坂の陣」を本作はどう描くのか?
■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK