『セクシー田中さん』は背筋を伸ばしたくなる名作 木南晴夏×生見愛瑠の“本気”が心に響く

「男の人が私をチヤホヤするのは、私が若くて適度にバカそうで、ちょっと頑張ればすぐに手に入りそうな、ちょうどいい存在だからでしょ。だから……だから私は、田中さんを素敵だって思うんだ」

 『セクシー田中さん』(日本テレビ系)は、「かわいいね」などという男からの美辞麗句を言われ飽きたモテOLの朱里(生見愛瑠)が、会社の先輩でベリーダンサーの田中さん(木南晴夏)と出会い、自分の本当の価値を見つめなおす物語だ。田中さん、朱里、そして作品そのものの「女性性の消費」に毅然とNoを突きつける姿勢が清々しい。

「胸を張ろうと思ったんです。曲がった背筋を何度も、何度でも伸ばそうと思った。ベリーダンスが魔法をかけてくれたんです」

 TOEIC900点声超え、税理士の資格を持ち、昼間は「経理部のAI」と言われる真面目で地味なOLの田中さんは5年前に鏡の前に立ち、猫背で老婆のような自分の姿に愕然として、自分を変えようと決意する。

 田中さんがベリーダンスに出会って変わったように、朱里も田中さんに出会って変わっていく。飲み会(最近では「合コン」は死語らしい)を繰り返し、「リスクヘッジ」と称して、そこそこの相手を見つけて手堅く無難な「普通の幸せ」を手に入れようとしていた朱里。モテるけれど、誰からも本当に愛されたことがない。大学からの友人で、3年前に一度だけ関係を持ってしまった進吾(川村壱馬)に、都合のいいように扱われている。

 そんな朱里は、たまたま入ったペルシャ料理店「Sabalan」で田中さんのダンスを見て衝撃を受ける。昼間は会社で完璧に仕事をこなし、余暇にはストイックに体を鍛え上げ、夜はベリーダンサーとして踊って魂を解放するという田中さんの「枠からはみ出した」生き様に心酔するようになる。

 田中さんのこれまでの人生は一人がデフォルトで、友達も恋人もいたことがない。しかし、真摯にベリーダンスに向かい続けた結果、朱里という初めての友達ができた。磁石のように引かれ合う田中さんと朱里の友情が、熱い。

 酒に酔って笙野(毎熊克哉)を自宅に泊めて、関係を持ってしまったのではないかと怯える田中さんへの、朱里によるケアが完璧だった。「女の敵は女」などという言葉がある。そういう世界もあるのだろうけれど、このドラマはとことんその逆、「女の味方は女」を描いている。互いに繰り返し「あなたは世界にたった一人の、かけがえのない存在なのだ」と声をかけ合う関係が尊い。

 田中さんのダンスを見ながら涙する朱里が、ヒラリー・クリントンの演説の一節を反芻するシーンが胸に迫った。

「これを観ているすべての少女たちへ。あなたたちには価値があり、あなたの夢を追い求め、叶えるために、この世のあらゆるチャンスが与えられていることを信じてください」

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