『ブギウギ』らしさが詰まった黒崎煌代の芝居 “人間にフタをしない”足立紳の脚本を考える

『ブギウギ』足立紳の脚本を考える

 血は繋がっていないが、ツヤに育てられたスズ子は、親の死に目に会えない覚悟の仕事ーーある意味修羅の道を選んだ。一家にひとり、一風変わった生き方をする者がいるのではなく、全員、常識から少しだけ逸脱している。そして、それを互いに、困ったものだと想いながらも肯定し合っている。それが『ブギウギ』の世界である。

 脚本家の足立紳にインタビューしたとき、「どんなに社会的地位がある人でも、自分のことを正直にありのまま書けば、大体はダメになるんじゃないのと、僕は思うんですよ。それをみんな、自分のダメなところにはフタをしてダメな人を作ろうとするから、こんなダメな人いる? というようなキャラクターになっちゃうんじゃないかな、と思うんですけどね」と語っていた(※)。

 足立紳は、人間にフタをしないで書いているから、家族全員、どこか少しズレた感じに見えるのかもしれない。でも、ダメなところを強調せず、ごく自然に描いているから、極端にお父ちゃん批判も出ないし、ツヤもやってることはやばいが、愛情深さのほうを高く評価する。第40話の、ゴンベエ(宇野祥平)と光子(本上まなみ)の再会といきなりの結婚話だって、光子が本上まなみだからすぐに信用してしまうのではないかという、うがった見方もできるが、不思議となんだかスルーしてしまう。足立紳は物事に目くじら立てさせない、天才かもしれない。

 憎めない愛らしいどアホの集まった花田家のなかで、唯一、「素直で正直」な純真そのものなのが、六郎である。彼は梅吉、ツヤ、スズ子のように調子よくはなく、自分は鈍くさいと自覚をしている。だから、赤紙が来たとき、一人前として認められたと喜ぶ。でも、戦争というものを考えると、行き着くのは“死”であり、死ぬことはこわいと、スズ子にだけは本音を漏らすのだ。

 母には言えなかった恐怖心をスズ子に吐露した場面も良かったが、やっぱり、母との別れの場面がよかった。母に甘えたい気持ちを、アタマを布団にぐりぐりこすりつける動きで示したところは、どんな言葉よりも、その動作だけで、六郎の心情が伝わってきた。そんなところも『ブギウギ』らしかった。

 みんな、六郎みたいになりたいと思っているのだと、六郎をツヤは愛おしそうにみつめる。梅吉も、ツヤも、スズ子も、思うようにいかないせちがらい世の中で、意地を張り、本音を隠しながら生きている。顔では笑ってはいるけれど、心で泣いていることもたくさんあるだろう。だから、素直に思ったままに話し、行動する六郎がうらやましい。そんな希望の存在の六郎が、帰ることを考えずに戦争に行く。「行きます」と言わないといけない状況で、スズ子はそんなこと言わなくていいと言い、六郎も心のままに「行って参ります」(帰ってきたい気持ちの現れ)と挨拶する。六郎のこの先を思うと、胸が締め付けられる。

参照

※ https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/b5ca113ad052d12f8523aa3ab79d0df58c3c7e81

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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