『攻殻機動隊 SAC_2045』を神山健治×荒牧伸志が振り返る シリーズの到達点と“未来”

『攻殻機動隊』神山健治×荒牧伸志対談

ーー企画の段階から考えると、荒牧監督と神山監督の付き合いは長いですよね。『ULTRAMAN』や『ブレードランナー:ブラックロータス』も共同で監督をしていました。そうした交流から、それぞれに得られたことはありますか?

荒牧:僕は、監督をする以前からデザイナーとしていろいろな作品に参加して来ました。それらの監督の仕事のやり方に興味があったんです。神山監督のスタンスにもとても興味があり、ずっと一緒にやりたいと思っていたので、脚本の作り方や作品のテーマの持たせ方といった部分では本当に勉強になりました。それが自分でもできますか、と問われると、同じ形ではたぶんできないとは思うのですが、ヒントはいっぱいもらいました。作品作りをこれだけ密に別の監督と一緒にできることはなかったので、学びや気づきがたくさんありました。

神山:モーションキャプチャも含めて、CGでアニメーションを作るということのキャリアは、たぶん荒牧さんが日本でも一番ある方だったので、そこを見たいと思っていました。あと、それまで自分はひとりで背負ってやっていたところがあったんですが、そうなるとどうしても目が行き届かないところが出てきます。眼が4つあると、作品への気づきも当然それだけ出てきます。そうした部分が大きかったです。

攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間

荒牧:監督って意外と孤独なんですよね、スタッフに囲まれている割には。共同監督でなくても、スタッフの中で自分以外に3人くらい、その作品のことを“本気で(監督目線で)”考えてくれている人がいると、すごく助かります。今回はそうした人がもうひとり確実にいる、というのが最大の心地よさでしたね。

神山:場合によっては0人ですからね。

荒牧:自分以外は考えていないという。もちろん他のスタッフもそれぞれに考えてくれているんですが、立ち位置もそれぞれからのものになってしまうんです。作品に対して同じ立ち位置、同じ目線で見てくれている人は意外にいないので、共同監督がいる良さはすごくありました。

ーー解消しがたいペアになってしまった印象すらありますが、今後も共同作業をしていくのでしょうか?

荒牧:今のところはお互いに勢いがあるので、しばらくはないでしょうね。

神山:ありがたいことにね。この年齢で5年ぐらい先まで仕事が詰まってるなんていうのはありがたい話ですよ。

荒牧:僕も20年近くずっとやってきて、神山さんとやりだしてからさらに加速しちゃった感じですね。

神山:若い時は、ある程度うまくいくと嫌になって遊びたいなとか、休みたいなとか思っていました。またいつでもこんなチャンスはあるだろうと。でも、この年齢になってくると、もう2度とないチャンスが、毎日来てるんだなって思うようになりました。一期一会なんだということが分かってきたので、今はそれをやるか、といった方向に頭も体も切り替えています。若い時と違って体力だけがヤバくなってきた感じですか。

ーー中高年クライシスと言われる中で、おふたりの活躍は同年代の人にとって励みになります。

荒牧:もっと上の70代とか80代の世代がすごいみんな元気ですからね。クリント・イーストウッドとかもう93歳で、うちの母より年上ですから。

神山:それでまだやろうとしているわけですからね。

荒牧:「このチャンスを逃したくない」っていう気持ちは、確かによく分かります。

(左から)荒牧伸志、神山健治
(左から)荒牧伸志、神山健治

ーー作品のテーマに戻りますが、『攻殻機動隊 SAC_2045』にはAIの進化も描かれました。現実世界でも、この1〜2年でAIがとてつもなく進化しました。作品で描かれたようなAIの介入による社会の変化がこれから来る可能性についてどう考えていますか?

神山:AIに関しては、今、語れるだけの勉強ができていないんです。本作を作っていたときからあまりにも早く進化してしまっているところもあります。AIがどう進化するかとかは想像つかないので、あまり考えてはいないです。ただ、ステレオタイプにAIが反乱を起こして人類が滅亡するといったこともやりたくないし、AIもそこまでバカではないだろうという思いもあって、希望も持っています。『攻殻機動隊 SAC_2045』では、AIは使う人次第で良くも悪くもなるといった描き方をしています。

荒牧:僕の見方で言えば、人間の進化の次のステップのひとつとして、AIがどういうふうに関与しているのかを描いています。

ーー物語の最後で描かれる世界は人間が自分で決めたものなのかどうか、迷うところがあります。

神山:いいお客さんですね(笑)。

荒牧:そこを観たいと思っていただけるのは本当にありがたいですね。

神山:作品としては明確な答えを出していますけど、そう思ってもらうのはなかなか、我々としてはありがたいです。

ーーそこをどう判断するかによって、この先『攻殻機動隊 SAC』シリーズに続きがあり得るのかないのかも決まってきそうですから。実際にシリーズの次の構想なり思いといったものはあるのでしょうか。

神山:「今すぐお金を出すから作ってくれ」と言われたら作れますね。しかも2種類。素子がどのような判断をしたかで違うものを。

荒牧:それは面白いかもしれない。

神山:すぐ作れますけれど、今はまだ、僕たち以上にお金を出す方が疲れているところがあるんじゃないでしょうか(笑)。

ーー本作は、シーズン1をまとめた前作の『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』と同じ藤井道人監督による編集版となります。伝えたいことをしっかりと伝えてくれている作品になったでしょうか?

神山:同じ監督の立場なので作品についての評価はしませんが、ちょっと無茶ぶりにも近い仕事に前向きに取り組んでいただいたことに、本当に感謝しているというのが率直な感想です。むしろ、もっと自分の解釈で作ってもいいんじゃないかと思ったくらいでしたが、そこはこちらの気持ちを汲んでくれたのだと思います。今回は藤井さんの作品として、僕らもお客さんとして楽しみにしています。

荒牧:結構長尺なシーンをワンシーンまるごと作り足していたり。

ーーそれは期待が膨らみます。今回の劇場版は、ファンの方々にはどのように観てほしいですか?

荒牧:この映画を観て、そこに描かれているテクノロジーとか、人間社会の行く末に思いを馳せていただければ。月並みですけど、自分たちのこととして思い至ってもらえるとすごく良いなと思います。

神山:実際に戦争が始まってしまったので、もしかしたら戦争の仕組みというものを考える機会になるといいなと思いますが、おこがましいのでこれくらいにしておきます。

■公開情報
『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』
3週間限定公開中
キャスト:田中敦子、中博史、大塚明夫、山寺宏一、仲野裕、大川透、小野塚貴志、山口太郎、玉川砂記子、潘めぐみ、津田健次郎、曽世海司、喜山茂雄、林原めぐみ
モーションアクター:草薙素子、川渕かおり、荒巻大輔、曽世海司、笠原紳司、岡田地平、武井秀哲、山城屋理紗
原作:士郎正宗『攻殻機動隊』(講談社KCデラックス刊)
総監督:神山健治、荒牧伸志
監督:藤井道人
演出・編集:古川達馬
脚本:神山健治、檜垣亮、砂山蔵澄、土城温美、佐藤大、大東大介
キャラクターデザイン:Ilya Kuvshinov
CGディレクター:松本勝
3Dキャラクタースーパーバイザー:松重宏美
プロダクションデザイナー:臼井伸二、寺岡賢司、松田大介
モデリングスーパーバイザー:田崎真允
バックグラウンドモデリングスーパーバイザー:市川聡
リギング、キャラクターFXスーパーバイザー:錦織洋介
リギングスーパーバイザー:井上暢三
モーションキャプチャディレクター:宇土澤秀公
レイアウトスーパーバイザー:崔佑碩
アニメーションスーパーバイザー:山口雄也
エフェクトスーパーバイザー:清塚拓也
ライティング、コンポジットスーパーバイザー:高橋孝弥
テクニカルスーパーバイザー:大桃雅寛
音楽:戸田信子、陣内一真
サウンドデザイナー:高木創
主題歌:millennium parade「Secret Ceremony」「No Time to Cast Anchor」
音楽制作:フライングドッグ
主題歌協力:ソニー・ミュージックレーベルズ
制作:Production I.G、SOLA DIGITAL ARTS
製作:攻殻機動隊2045製作委員会
配給:バンダイナムコフィルムワークス
©士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会
公式サイト:www.ghostintheshell-sac2045.jp
公式X(旧Twitter):@gitssac2045

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