『大奥』“家定”愛希れいかが残した希望 志半ばで断たれた思いは14代将軍・家茂へ
生前に善い行いをした者は天国、悪い行いをした者は地獄へ行く。多くの人はそう信じているが、本当は天国も地獄もなくて死んだら無に帰るだけなのかもしれない。
でも、たとえ生きている内に叶わなくとも最期まで志を持ち続けた人の思いは誰かに受け継がれ、死してもなお生き続けることができる。徳川家定(愛希れいか)の死は哀しみだけじゃなく、そんな一つの希望を残してくれた。
NHKドラマ10『大奥』第18話。前半で描かれたのは、家定と胤篤(福士蒼汰)の幸せに満ちた夫婦の時間だ。その幸せは2人が肩を寄せ合って見上げた月明かりのように穏やかで温かい。父からは虐待を受け、母には毒を盛られていた頃の家定には想像もつかなかっただろう。けれど、阿部正弘(瀧内公美)と瀧山(古川雄大)が注いでくれた無償の愛が水となり、栄養となり、家定という花はしおれていたところからどんどん息を吹き返していった。
そして出会った胤篤は、家定にとって誰かを恋い慕うということの意味を教えてくれた人。いつもと異なる流水紋の意匠を凝らした裃姿の胤篤に、急に恥ずかしさを覚えて避けたかと思えば、この人が好きだと実感して目に涙を浮かべる家定が愛おしい。愛希が演じる家定は聡明で食事を用意してくれる御膳所にまで気を配る将軍としての器の大きさを兼ね備えているが、時に純粋で幼い印象を受ける。その一面を引き出すのは胤篤であり、家定が心を許している証拠。そんな胤篤と家定は子を儲け、これからも同じ時を刻むはずだった。
しかし、それから間もなく家定はお腹の子と共に帰らぬ人となる。大奥の混乱を避けるための習わしでもあるが、しばらくの間、家定と離れて暮らしていた胤篤にその死が知らされたのは1カ月後のことだった。井伊直弼(津田健次郎)が大老に就任し、次の将軍は紀州徳川家の福子姫、家茂(志田彩良)に決まったも同然と思われていた中での懐妊。よく思わない者もいるだろうという気遣いは虚しく、家定と胤篤はさよならも言えぬままこうして別れを遂げる。家定は何者かに毒殺された可能性も捨てきれないが、今さら特定は難しい。いつもは冷静で感情的にならない胤篤が、「離れていても同じ時を刻めるように」と家定に自身が贈り、形見として戻ってきた懐中時計を怒りのまま投げ捨てる姿がいたわしかった。