『ゴジラ−1.0』は『シン・ゴジラ』と正反対のアプローチ 同時代性が詰まったラストシーン

 主人公の敷島浩一(神木隆之介)は、零戦で特攻に向かう途中、機体修理のために着陸した大戸島でゴジラに遭遇。零戦に搭載された20ミリ砲で敷島がゴジラを撃てなかったことが原因で多くの整備兵が命を落としてしまう(撃っていても結果は変わらなかったとはいえるが)。それから数年後、核実験で被曝し巨大化したゴジラが戦後の日本に襲来する。

 本作のゴジラには敗戦の記憶が重ねられており、ゴジラとの戦いを本土決戦に見立て、敷島たち元日本兵たちが“自分たちにとっての戦争”を終わらせようと苦闘する物語となっていた。

 その意味で戦前の日本を肯定する愛国主義の物語と言える。しかし一方で、ゴジラを倒す海神作戦の発案者である元技術士官の野田健治(吉岡秀隆)に「思えば、この国は命を粗末にしすぎてました」と旧日本軍の振る舞いを批判させ「一人の犠牲者も出さないことを誇りにしたい」と言わせている。ゴジラを倒すために特攻を覚悟した敷島にも生きることを選択させており、英雄的な戦いとは裏腹に、戦後日本的な人命尊重の価値観が打ち出されている。

 また、野田は今回の作戦を「民間主導」と語っている。これも官僚が物語の中心にいた『シン・ゴジラ』とは真逆のアプローチで、山崎の代表作である『ALWAYS 三丁目の夕日』のような市井の人々の視点から描かれた『ゴジラ』となっていた。

 最後に同時代性。まず何より『−1.0』(マイナスワン)というタイトルに、少子化や円安といったさまざまな要因によって国が急速に貧しくなっている現在の日本が象徴されていると感じたが、何より驚いたのがラストである。

 ゴジラは海に沈み、死んだと思われていたヒロインの大石典子(浜辺美波)が実は生きていたというハッピーエンドで本作は幕を閉じるのだが、紀子の首筋に黒いアザが見えるのが、実に不穏だ。

 仮に彼女が生きていた理由が、ゴジラの剥げ落ちた皮膚から再生能力の高い細胞が付着した結果だとすれば、典子だけでなく、彼女と同じようにゴジラの細胞に寄生された人々が、第二、第三のゴジラに代わる可能性は否定できない。山崎監督は人間に寄生する共食い専門の怪物・パラサイトと人類の戦いを描いた漫画『寄生獣』(講談社)を映画化しているため、続編があるとすれば『寄生獣』のような展開もあるかもしれない。

 何度倒されても再生し、人々に危害を及ぼすゴジラには、新型コロナウイルスのパンデミックのイメージが投影されているように感じる。一気に同時代性が増した見事なラストである。

■公開情報
『ゴジラ-1.0』
全国東宝系にて公開中
出演:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介ほか
監督・脚本・VFX:山崎貴
音楽:佐藤直紀
制作プロダクション:TOHOスタジオ、ROBOT
配給:東宝
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公式サイト:https://godzilla-movie2023.toho.co.jp
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