『◯◯のスマホ』シリーズは大河と並ぶ時代劇に? 視聴者を熱狂させた工夫の裏側を聞く

視聴者をどう“裏切っていく”か

『光秀のスマホ』

――スマホ上での会話がリアルです。歴史感と現代性のバランスはどのように考えていますか?

田中:本筋のほかに雑情報がいっぱいあるため、視聴者の方々が見たいところを見ているのではないでしょうか。脚本家やブレーンなどによる集合知からできているので、関わったスタッフの人生経験が少しずつ入っている。SNSで頻繁に送信取り消しをする人や、SNSの裏垢でいつも愚痴っている人、いろいろな実体験がモザイク状に入っていて。観るかたに委ねることの大きいドラマです。

本庄:こちらが散りばめたネタを全部わかる人はたぶんいなくて。それでもひとつ、ふたつわかると、いまの社会が描かれていると思ってもらえるのではないでしょうか。

田中:史実をたたき台にしていることでドラマの足腰が強くなっているとは思います。清水先生など専門家に監修もお願いし、当時描かれた日記をはじめとした歴史的な資料をいかに現代に置き換えるか腐心していて、その土台がしっかりしてることが強みであり、NHKだからこそできることだとも思います。だからこそ大河ドラマ好きやNHKの番組が好きな方にも、単純にお遊びではなくしっかりした土台があると受け入れてもらいつつ、さらに若者や子供も観て話題にしてもらえるのだと思います。

本庄:迷ったら史実に立ち返ることは意識しています。史実という軸足があるから、これをいまの世の中にどう翻訳するかという脳みそが使えるのだと思います。

『光秀のスマホ』撮影裏の様子

――大河ファンの方々に荒唐無稽だとは言われないですか?

田中:清水先生はイベントで最初は怒られましたと言っていましたけれど(笑)、比較的みなさん優しく見守ってくださっています。当たり前にスマホが存在しているという振り切りかたをしているからでしょうか。第一作『光秀のスマホ』制作のとき、スマホを拾うシーンを入れてなんでここにスマホがあるのか説明してもいいのではという意見もありましたが、問答無用に存在しているほうがいいと。振り切ってよかったです。

――支持層、従来のNHK視聴者層以外の手応えはいかがでしょうか?

田中:SNSの反応を見ると、学校で先生が観せてくれたとか、家族で観て子供がハマってるとか、そういう声が散見されます。若い世代にも届いている実感があります。

本庄:公式アカウントのフォロワーの年齢層は大河のフォロワー層と変わりませんが、NHK自体が比較的高齢のかたに支持される傾向があると考えると、NHKのなかでは若い方の支持率も高いといえるかなと思います。この間のリアルイベントでも若いかたが来てくださったと感じました。

永山:僕は番組に参加したとき最年少で、個人的な感触としては若いかたにもおもしろがってもらえていると思っています。たとえば、『信長のスマホ』では、いま、流行っているコンテンツのパロディを、『家康と三成のスマホ』では、人気お笑い芸人の投稿動画のパロディなど、従来のNHK視聴者層には馴染みのなさそうな作品のパロディもあえて取り入れています。そこが若いかたに刺さっているのかなと。

『信長のスマホ』

――『家康と三成のスマホ』で、視聴者投票による2パターンの最終回をやることになった経緯を教えてください。

田中:僕らがチーム全体で意識していることは、視聴者をどう裏切るかということです。『光秀のスマホ』をやったとき、次の大河ドラマの『青天を衝け』に合わせてやるんだからきっと『渋沢栄一のスマホ』だろうという声が多かったので、大河では脇役だった『土方のスマホ』にしたり、『義経のスマホ』をやったときは、声を女性(川栄李奈)にしたり、毎回、「今度はこう来たか」と思われる演出を常に意識してきました。『どうする家康』がはじまった瞬間に、これまでの主人公は全員非業の死を遂げた人ばかりだから次は『三成のスマホ』だろうという声がとても多かったので、それをどう裏切ろうかと考えました。そこで最初は『信長のスマホ』スタートで、三成じゃないんだと思わせ、でもラストに『天下人のスマホ 続』とクレジットを出すことで、続きがあるのか? 次は誰?と思わせて、『秀吉のスマホ』で……という。ただ視聴者投票については、元々の構想では、家康と三成のどちらにスマホを持たせたいか、つまり主人公を投票で決めるというものでした。秀吉のスマホを受け継ぐのはどちらか、それを視聴者みなさんで決めてもらうことにして。そうやって三成に違いないと思っていた方々も裏切りつつ、楽しんでいただこうと思ったんです。それを竹村さんに相談したら、投票が使えるなら、最終話の勝敗を皆に委ねるのはどうですかねとアイデアをいただきました。それが一番裏切りとして楽しく、しかも関ヶ原の戦いの日である9月15日の放送ができそうだったので、みんなでスマホ版の関ケ原を作るという、最高の楽しい裏切りが実現しました。

※以下、『家康と三成のスマホ』最終回のネタバレを含みます。

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