『ゴジラ-1.0』徹底考察 第1作『ゴジラ』や『シン・ゴジラ』、山崎貴の作家性から紐解く

 だが、特攻を断念した人物の心の葛藤を、そもそも問題にするべきだったのかという疑問は残る。政治的な立場にかかわらず、兵士を自爆させることを強要することは重大な戦争犯罪であり、命じた者たちの責任がまず描かれるのが筋だといえるだろう。例えば『ワンダーウーマン』(2017年)のような娯楽映画であっても、味方として描かれるイギリスの兵士たちが、上層部の意向よって捨て石にされていたという、史実を基にした描写がある。

 しかし本作では、特攻という明らかな戦争犯罪の例であっても、日本の戦争責任を想起させる者たちについては“透明”にでもなったかのように扱われのである。まさに英語の慣用句にある、「部屋の中の象」だ。問題の本質について、誰も触れないのである。この点で本作は、同じく特攻を描き、日本の責任を美談で糊塗した『永遠の0』と共通する問題点を持っているといえる。前述したように、「ゴジラ」という存在は、政治的であり社会的なものの象徴として生まれている。そんな第1作を山崎監督らしく料理し直し、さらに戦争そのものとのリンクを描こうとした本作『ゴジラ-1.0』は、同様に政治的な見方をされることは避けられないはずだ。

 対して『シン・ゴジラ』は、その見通しに官僚エリート主義という幻想があることを指摘されつつも、「先の戦争」を教訓とできず、現代の日本においても戦中の状態から変えることができていなかった政治家たちが、最終的に自分たちの命を守るべく逃げようとしているところをゴジラに滅殺されるという、至極妥当といえる風刺表現がある。この点で本作『ゴジラ-1.0』は、戦争の反省や一部の問題点を描きながらも、問題の核心に迫ることはできていないと判断せざるを得ない。

 もっといえば、本作において特攻を美談として消費することを否定的に描き、それが山崎監督自身の歴史認識であり政治的な考え方なのだとすれば、なぜ『永遠の0』では、原作があったにせよ、その仕事を引き受けて真逆の考え方を描いてしまったのだろうか。もし政治問題にそれほど興味がなかったり、または政治的な意見を場合によって変えられる主義なのであれば、本作の戦争についてのメッセージ自体も軽薄なものに感じられてしまう。その意味で、本作のポジティブなテーマは、大筋では賛成できるものの、いまいち納得しきれないモヤモヤも残るのだ。

 責任を断罪する代わりに描かれるのは、民間の人々の頑張りである。軍を除隊して他の仕事に従事している人々や、漁師たち、日本の一般市民たちが力を合わせるのは、『シン・ゴジラ』のエリート主義に対するカウンターともとらえられるし、『ALWAYS 三丁目の夕日』が表現してきた市井の人情の物語を移植したものだともいえるだろう。そして、戦後復興やその後の経済発展に、現在の日本の停滞した経済状況を重ね合わせ、多くの国民を力づけようとする意志を感じることができる。

 とはいえ、「民間の力で頑張っていこう」というメッセージが、現在の日本社会で働いている民間の人々に響くかといえば、個人的には難しいところがあるのではないかと思える。コロナ禍や円安、物価上昇や税の引き上げなど、日本社会は外的要因の他に国内の政治の舵取りによって疲弊している状況にあるといえる。いま民間の人々は、そんな環境下で頑張り過ぎるほど頑張っているのである。とくに本作で活躍する、海での猟に従事する人たちに至っては、政治状況に翻弄されることで苦境に陥っているといえる。その意味では、政治こそ変わらなければならないという『シン・ゴジラ』のテーマから、本作は後退してしまったのではないかと感じられる。

 だが、本作のVFXやアクション演出については、『シン・ゴジラ』の先をいっているのは確かであり、ハリウッド版のスペクタクル表現と比べても十分に勝負できる水準にあることは証明できたはずだ。この熱量をいつでも維持することは難しいかもしれないが、工夫と研鑽によってまだまだ新しい試みを「ゴジラ」という題材でできるという、大きな希望を示すことができたことは大きい。この点においてだけでも、本作の存在意義は十分に果たされていると考えられる。

■公開情報
『ゴジラ-1.0』
全国東宝系にて公開中
出演:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介
監督・脚本・VFX:山崎貴
音楽:佐藤直紀
制作プロダクション:TOHOスタジオ、ROBOT
配給:東宝
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公式サイト:https://godzilla-movie2023.toho.co.jp
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