『いちばんすきな花』松下洸平に感じる不思議な暖かさ 巧みな台詞回しで視聴者を魅了
優しい声にふわりと包み込まれたかと思うと、そこに続くのはずっしりと重みのある言葉の数々だ。現在、フジテレビ系で放送中の『いちばんすきな花』で春木椿を演じる松下洸平は、声の端々からキャラクターの個性がしっかりと伝わる台詞回しの巧みさも持ち味の一つである。
本作は、今クールで最も注目されているドラマと言っても過言ではないだろう。脚本家の生方美久の魅力が溢れるセリフの数々。そしてクアトロ主演の役者陣が丁寧に表現する各キャラクターの人間性。作品を観る者が時に共感し、時に反発する気持ちさえも“話題性”となって昇華されていく。そんな本作で、やはり言及しないわけにはいかない魅力を放つのが松下だ。
朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)でヒロインのパートナーである十代田八郎役を演じ一躍話題に。その後も『#リモラブ〜普通の恋は邪道〜』(日本テレビ系)、『最愛』(TBS系)、『やんごとなき一族』(フジテレビ系)、『合理的にあり得ない 〜探偵・上水流涼子の解明〜』(カンテレ・フジテレビ系)など、数々のドラマで女優を輝かせる芝居で存在感を見せてきた。松下は、他者を上手く立て、自分の個性だけでなく相手の個性をも引き出すことができる。そんな彼が芝居で魅せる「人間力」はキャラクターの垣根を超えて愛され、『スカーレット』のハチさん(十代田八郎)に出会ったら、『リモラブ』のあおちゃん(青林風一)を好きになり、『最愛』の大ちゃん(宮崎大輝)に夢中になるというように、愛が連鎖されていく。
松下の活躍はテレビドラマにとどまらない。音楽活動、舞台、映画と大忙しの中、興行収入37.6億円(10月15日まで)を突破し現在も公開中の映画『ミステリと言う勿れ』で非常に重要な人物を演じる。ここでも松下は、気付いたら虜になってしまうほどの引力で観客を魅了した。特に本作のヒロインである汐路(原菜乃華)とのコミュニケーションにおいては、本当に近所にいそうな「初恋のお兄さん」といった暖かい雰囲気をまとうため、観客はこの朝晴というキャラクターにすっかり気を許してしまう。彼の中に潜む危うさは物語の後半に初めて明かされることになる。松下のキャリアにおいても新境地となるこの役は必見だ。