『ダンまち』10周年、大森藤ノインタビュー 「“正しい間違い”が今の重要なキーワード」
小説家を目指す人は……「読みなさい、書きなさい」
ーー書き続けるため、売れ続けるためにやろうとしたことはありますか? 自分が出すものなら絶対に大丈夫だという自信があったとか?
大森:これも恥ずかしい話ですが、そうした気分は少なからずありました。ウェブ小説という段階を踏んでいたことで、ひとつ成功体験があったのが自信の源だったと思います。評判が良かったミノタウロス戦を読めば皆もっと好きになってくれるはずだという気がしていました。「第3巻までいけばもっとやばいです」みたいな謎のドヤ感があって、それで第3巻が出たらやはり面白い面白いって言ってもらえて、いろいろと賞も頂いたし『このライトノベルがすごい!』では新作部門で1位になって。天狗の鼻がさらに長いものになってたと思います。その鼻が折られたのが第10巻の「異端児(ゼノス)編」でした。読者の人たちから、「なんでこんなことするんですか、先生!」みたいなファンレターをいっぱいもらって、それまで読者と同じ方向に向かって走っている感覚があったのが、初めて世界のことや皆のことが分からなくなりました。ここまで着いて来てくれたのだから、この第10巻の内容を皆好きって言ってくれると思ったのに全然違うぞ、みたいな。
――そうは言っても必要だから「異端児(ゼノス)編」は書かれた訳ですし、あの展開があってベルの成長も、物語世界の広がりもあったと言えます。
大森:そうですね。「異端児(ゼノス)編」は、ベルと、私にとってすごいターニングポイントでした。第11巻は本当にベルと同じ気持ちになって書いてたんです。その時のベルは、街の人からも石を投げられて除け者にされています。私も読者から、「『ダンまち』はもうダメなんじゃないか、どうしてこんな事をするんだ」ってきっと思われてて。その鬱屈を溜めて溜めて、最後のアステリオス戦にぶつけて解放したら、また読者の評判が良くなってベルと一緒になって突き抜けたって思いました。あの時は本当にベルとリンクしてた感覚でしたね。色んなことを人から言われたけれど、最後まで貫いて「異端児(ゼノス)編」を走りきってよかったなって。こういう言い方が当てはまるかは分からないんですが、その時に大人になったのかもしれません。第12巻からベルの顔つきが変わったといった描写が結構でてきます。自分で言うのはカッコ悪いですけど、もしかしたらそこで作家としての私が一皮むけたのかもしれません。
――自分の信じることを貫き通し、嫌われてもやらなくてはならないところをやり抜いた結果として大勢が救われ、認められることになる展開は読んでいる側も嬉しい気持ちになれました。
大森:ありがとうございます。ベルはそんなことは思わないですけど、私には「今に見てろ~!」といった感じがありましたね。それで報われたというのは結構嬉しかったです。そこからですね、作品の中にも「間違っても良いじゃないか、失敗しても良いじゃないか」といったことを書くようになりました。ずっと成功し続ける人生も楽しくて気持ち良いかもしれないけれど、間違っても良いし間違えるなら“正しい間違い”をしようみたいな描写をするようになりました。“正しい間違い”というのは、私の中で重要なワードになったかなと思います。
ーーこれから小説家を目指す人に、自身の経験などからこうした方が良いといったアドバイスなりメッセージをお願いします。
大森:すごく突き放す言い方になりますが、私の結論は決まっていて。「読みなさい、書きなさい」。これだけです。人の10倍読んで人の10倍書くだけで絶対上達します。あとは、何か自信を持ってほしいということでしょうか。私は本当に読書が嫌いで、読書感想文なんてもう絶対書けませんでした。何回その本の中のセリフを引用して先生に怒られたかわからないです。現代文や古文の成績もぜんぜん良い方ではなかったけど、そんな人間がこういう場所に立っていられます。自分が好きなものを見つけると、大森藤ノにはなれないけれどあなたにはちゃんとなれます。絶対成功するなんて私からは言えませんが、成長は絶対します。
ーー自分を信じて努力しよう、ということですね。
大森:自分を信じられなくて迷っても、ぜんぜん大丈夫です。むしろ迷うことが大事なのかなって。あと、具体的には自分が好きなものをちゃんと自覚しておくことが大事だと思います。誰かに質問されて好きな作品を一つ挙げてと言われた時、多分すぐには挙がらないと思うけど、これが三つ挙げてということだったら、そのうちの一つくらいは多分すぐに挙げられると思うんです。そんな三つないし五つくらいの好きな作品を挙げられるよう、自覚しておくことが大事かなって。そして、自分がどんなシーンを楽しいと思ったのか、涙が出そうになったのかということを、ちゃんとメモしておくといいと思います。小説はもちろん、漫画でもアニメでもゲームでも。それを覚えておくだけで自分は何が書きたいのか、自分の必殺技は何なのかが分かると思います。ベルで言うところのファイアボルトですね。
ーーファイアボルト! 実に分かりやすい例えです。
大森:何が自分の武器かちゃんと認識しておくと、どんなものを書く時でもその軸さえぶれなければ、きっと物語は書けます。異世界転生や異世界召喚というジャンルが流行っているとして、いや私が書きたいのは異能バトルなんですって言いたいかもしれませんが、それを異世界転生や異世界召喚でやっても、その軸をずらさなければ、包むものが変わってるだけであなたが書きたいものは絶対にブレません。子供の頃の自分を振り返ってみるのもすごく自分のためになると思います。きっと昔の自分に助けてもらえます。日記を書くのがもしかしたら一番いいのかもしれないけど、ちょっとハードルが高いかもしれないので、やっぱりまずは好きなものを自覚することですね。
――『ダンまち』といえば11月4日に原作10周年を記念したファン感謝祭『 聖火祭 ( ウェスタ・パーティ ) in 竈火の館』が開かれます。
大森:すごく久々のリアルイベントですので楽しみにしています。アニメでベルを演じている松岡禎丞さんらキャストの方々が来られるので、お客さんの反応もすごいんじゃないかなと思います。楽しんでいただけたら、すごく嬉しいです!
■イベント情報
『ダンまち』ファン感謝イベント「聖火祭ウェスタ・パーティ in 竈火の館」
11月4日(土)
【昼公演】14:00開場/14:30開演(予定)
【夜公演】17:30開場/18:00開演(予定)
会場:ニューピアホール(東京都港区海岸1-11-1 ニューピア竹芝ノースタワー1F)
出演:松岡禎丞、水瀬いのり、早見沙織、赤﨑千夏、千菅春香、渡辺明乃、sana(sajou no hana)
MC:森遥香
※出演者は予告なく変更になる場合があります。
※出演者変更に伴う払戻は致しませんのでご了承ください。
ライブ配信チケット
【昼公演】14:30(予定)~
【夜公演】18:00(予定)~
受付URL:https://eplus.jp/danmachi_st/
販売期間:10月7日(土)10:00 ~ 2023年11月10日(金)20:00
アーカイブ視聴可能期間:2023年11月10日(金) 23:59まで(予定)
※チケット代の他に手数料が必要になります。詳しくはお申込時にご確認下さい。
※配信終了前日(11月9日00:00)からはクレジットカード決済のみでの販売になります。
※視聴方法:ご入金確認後メールで視聴URLをお知らせします(またはイープラス申込状況照会より「QRチケット表示」を押す)ので、購入時のイープラスID/PWでログインをしてください。
©Fujino Omori / SB Creative Corp.illustration:YASUDA SUZUHITO
公式サイト:https://danmachi.com/
原作10周年記念サイト:https://danmachi.com/10_projects/