『わたしの一番最悪なともだち』の“ともだち”とは誰? 脚本・兵藤るりの卓越したセンス

『わたとも』脚本・兵藤るりの卓越したセンス

 脚本を手がけた兵藤るりは、シーン選びが抜群に良い。そして台詞のセンスに痺れる。

 いろいろと行き詰まり、休暇をとって実家に帰ることにしたほたる。苦しかった就活時代、ほたるの背中を羽毛ぐらいのソフトタッチでそっと押し続けてくれたクリーニング店「アズマ」の聡美(市川美日子)に会いにいく。そしてそこには、慎吾と美晴の姿もあった。最終週はほたるにとって「原点回帰」のターンとなる。

 全てがこんがらがってしまったほたると、「やりたいこと」と「できること」の間で悩み、只今「人生のシンキングタイム」だという美晴に向かって、聡美が言う。

「人生の途中にシンキングタイムがあるのではなくて、人生そのものがシンキングタイムなのかもしれないですね」

 常に視界に入ってきて「腹が立った」とほたるが言う美晴は、物語の中でほたるの「写し鏡」の役割を果たしている。最終週、29話の構成には驚かされた。酔った勢いで、エントリーシートに美晴のことを書いたと告白したほたるに、美晴は「出てって」と言う。

「わたしが『出てって』と言った理由。それについて考えるには、わたしの人生を少し振り返る必要がある」

 と、第1話でほたるが語ったのと同じモノローグが美晴の声で繰り出され、今度は美晴視点の回想が始まる。

 嫌なことがあった日、なぜかほたるに甘えたくなったこと。「トイレットペーパー貸して」「醤油貸して」と何かしら言い訳をつけて、ほたるに会いに行ったこと。何気ない会話で癒されたこと。ほたるのおかげで、知らない世界に出会えたこと。いつも変わろうとしているほたるを見て、実は憧れていたこと。

 久しぶりにほたるに会った美晴は、「笠松さん、変わったけど全然変わってない」と言った。そして実は、美晴はほたるに憧れていたことがわかった。つまり、美晴と会うたびにあんなに顔をしかめていたほたるのことを、美晴は最初から肯定していたのだ。「笠松さんはそのままでいい。そのままがいい」と、はじめから認めていたのだ。

 ほたるが面接の際に言った、この言葉が思い出される。

「素の自分を好きになるのって、とても難しいです。受け入れるのでさえ難しいです。だったら自分で決められたらいいと思うんです」

 答えは最初からほたるの中にあったのだ。「素」と「外面」。どっちが先だっていい。入り口はどこからだっていい。何かに“擬態”することで、本当の自分に辿り着けることだってある。

 母の純子は言う。

「わたしはね、『お母さん』って役割に満足してる。だからあんまり『本当のわたし』とかは思わないかな」

 役割を与えられて、生きられる人もいる。みんな違って、みんないい。

 タイトル『わたしの一番最悪なともだち』の「ともだち」は、ほたるにとっての美晴のことではあるのだが、同時にほたる自身をも表しているのではないかと思えてくる。自分という、いちばんよくわからない生き物、不可解な生き物、厄介な生き物。この、一生つき合う羽目になる「自分」と、対話し、ときになだめたり、励ましたり、発破をかけたりしながら、生きていく。それが生涯にわたる「シンキングタイム」ということなのだろう。

 最終回でほたるは、どんな答えを見つけるのだろう。タイトルロゴのように、「最悪」の「悪」の字がひっくり返って、美晴は、そして自分自身は「最良のともだち」へと変わるのだろうか。父の健次郎が言っていた「生きている手触り」を、ほたるも掴むことを願ってやまない。

■放送情報
『わたしの一番最悪なともだち』
NHK総合にて、毎週月曜~木曜22:45〜放送【全32回】
出演:蒔田彩珠、髙石あかり、高杉真宙、倉悠貴、サーヤ、久間田琳加、井頭愛海、紺野まひる、マギー、倉科カナ、原田泰造、市川実日子
作:兵藤るり
原案・脚本協力:吹野剛史
音楽:tofubeats/(参加アーティスト) in the blue shirt、UG Noodle、The Hair Kid(Milk Talk)、ratiff(Neibiss)、64controll
メインビジュアル・タイトルバック制作:濱田英明
制作統括:陸田元一
プロデューサー:押田友太
演出:橋爪紳一朗、小谷高義 工藤隆史
写真提供=NHK

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