神木隆之介×浜辺美波『らんまん』充実の半年間に感謝 実に劇的だったスエコザサの脚色

『らんまん』万太郎と寿恵子の思いは永遠に

 万太郎のモデルである、稀代の植物学者・牧野富太郎の、自叙伝や評伝などを読むと、実家が豪商だったため、金遣いが荒く、実家の家族や、妻に対しても、自分のやりたいことに資金や労力を提供してくれる人のように思っていただけのようにも感じる。そのため、牧野富太郎をモデルにしてドラマを作ったとき、視聴者が嫌悪感を抱く人物になる可能性もあったと想像する。

 人間誰もが清濁併せ持っているという真理を描くことは意義深いとはいえ、実家の経済状態を危うくさせ、妻が働き、子沢山の家計を守るなか、植物研究に没頭していたという、いささか変人的な人物が、朝ドラとして面白く愛される人物になるのか。すると、記録として残っていないが、当人は、家族ーーとくに妻にとても感謝して、愛していたのではないか、という作家の想像力の翼を思いきり広げた物語になった。おそらく、その根拠は「スエコザサ」であろう。妻の名前をつけた植物とは何にも勝る愛情表現である。ドラマでは、出来上がった図鑑に、最後に1ページ、スエコザサを加えているのが実に劇的だ。

 「愛の花」に「言葉足らず」という歌詞があるが、万太郎は不器用で言葉足らずなだけだったのだという面を、ドラマは思い切り描いた。残っている牧野富太郎の満面の笑顔の写真から感じる、こんなに植物が好きなのだし、マイペースながら、困難を乗り切ってきたことには、当人の人柄が作用しているうえに、ほんとはきっと家族や隣人愛にも溢れていたのではないかという希望をドラマは描いてくれた。歴史上、悪いと言われていた人がじつはいい人だったというドラマは視聴者の大好物である。ほんとは、いやな人だったというドラマはやはりあんまり観たくないものだ。

 また、内助の功も視聴者の好物であるが、『らんまん』では夫のために妻が自己犠牲を強いられるようには描かれず、寿恵子は常に自分を主体に生きている。万太郎が必ず成し遂げる人物だと信じて励まし続け、そのおかげで万太郎がどんなに困難にあっても挫けなかったようにドラマは描かれている。そのため、寿恵子は途中、自分の期待のせいで万太郎が苦悩しているのではないかとも心配する。最終回では、自分が死んでも泣き続けず、植物に会いにいってと願う。植物と触れ合っているときと、家庭に戻ったときの万太郎は別で、家庭では寿恵子が最上級であるという自信を持ち続けた寿恵子。だからこそ、まったくめそめそと湿っぽいところのない、からりと明るく、仲のいい夫婦関係だった。

 物語を盛り上げるためとはいえ、誰かが亡くなることに注目させる流れには時々、疑問を感じるのだが、寿恵子が亡くなる流れをさらりと描き、その前に万太郎もまたすでにいないことを時制を入れ替えて描き、亡くなったあとも万太郎の残した膨大な研究と、寿恵子の出汁の味の親子丼などで、彼らの気配を感じさせたところも上品だった。肉体は滅びても、思いは永遠だ。

■配信情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】 
NHK+、NHKオンデマンドで配信中
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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