神木隆之介×浜辺美波『らんまん』充実の半年間に感謝 実に劇的だったスエコザサの脚色

 充実の半年だった。朝ドラことNHK連続テレビ小説『らんまん』は、清濁併せ持ったひとりの植物学者・槙野万太郎(神木隆之介)の生涯を、ただただ植物を愛した人物として描ききった。いや、それだけではない。万太郎は植物を愛しただけでなく、妻・寿恵子(浜辺美波)を愛し、隣人を愛した。それが最終週「スエコザサ」では強烈に伝わってきて、最終回に至っては、旅の終わりにすてきなお土産をもらったようなあたたかい気持ちになった。

 主人公の少年期からはじまったドラマも最終週では60代。昭和2年、練馬区の広い敷地に住居と資料室を建て、植物図鑑発刊に向けて作業も大詰めの頃、寿恵子がこの時代の医学では治せない病にかかっていることが判明する。

 図鑑発刊を急がなくてはならない。万太郎は「どうか」「どうか」と旧知の仲間たちーーかつての大学の同僚・藤丸(前原瑞樹)や波多野(前原晃)、野宮(亀田佳明)、長屋の仲間・丈之助(山脇辰哉)たちに助けを求める。植物画、索引作成、校正など、みんなの力が結集して図鑑が完成し、万太郎は、本の冒頭に、みんなの名前を記す。まるで過去の贖罪のようである。

 若き頃、万太郎は論文にお世話になった人たちの名前や謝辞を入れず、恩人・田邊(要潤)を怒らせた。視聴者的にも万太郎は常識を知らなさ過ぎると思ったものだが、長い歳月を経て、万太郎は、自分ひとりの力では何事もできないと知ったのだろう。

 こと植物に関しては「雑草という草はない」「どの草花にも必ずそこで生きる理由がある。この世に咲く意味がある」という信念を早くから持ち、ひとつひとつの特性を知り、名づけていくことを人生の課題にしていた万太郎が、なぜか人間に対する意識は薄めで、晩年になってようやく、人間にもひとりひとりの個性と名前があり、なんらかの関与をしながら生きているのだということに気づいたという変化の物語にもなった。

 個人主義が行き過ぎると、欲望がぶつかりあい争いが起こる。個人を認めながら、助け合うこと。あいみょんの主題歌「愛の花」で、語尾の「わ」が「輪」になることとも呼応しているような、いわば民主主義の理想が、植物図鑑という一冊の本として可視化された。

 万太郎は青年期、一瞬、自由民権運動にハマった際、植物と人間を重ね合わせて考えるに至ったようであったが、活動の挫折によって停止した万太郎の思考が再び動き出した要因は寿恵子との出会いであろう。

 寿恵子に出会い、焦がれ、結婚して、子供を成し、彼らに想いや願いをこめて名前をつけたことで、はじめて万太郎は、人間の名前の大切さを知ったのではないか。万太郎が寿恵子に出会っていなかったら、ほんとうにただの植物に夢中なだけで、お金遣いの荒い、良識のない人物で終わってしまったかもしれない。

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