『ウソ婚』が教えてくれた世界の色の変え方 菊池風磨と長濱ねるだったからこその匠と八重

 生きていると、どうしても建前でやり過ごさなければならない瞬間がやってくる。たとえば、上司から「この服、どう?」と聞かれて、本音では「似合ってないなぁ」と思うのに、「すごい似合ってます!」と褒め称えてみたり。すごくしんどいことがあったけど、心配をかけたくないから「大丈夫!」と強がってみたり。私は勝手に、建前に対して悪いイメージを抱いていたけれど、よくよく考えてみたら建前というのは、相手を傷つけないようにするための優しいウソなのかもしれない。

 また、『ウソ婚』(カンテレ・フジテレビ系)を通して、ウソにもいろいろな種類があることを知った。“ウソ=悪”だと思われがちだが、この世界には優しいウソもたくさん存在する。というか、「人を傷つけたり、自分を守るためのウソよりも、他人のためにつくウソの方が多く存在するのでは?」と思えてくる。これはきっと、脚本担当の蛭田直美が、優しく丁寧に登場人物たちの言葉を紡いできたからだろう。

 そして、『ウソ婚』の陽だまりのような世界観を見事に体現してきたキャスト陣。まず、夏目匠を演じた菊池風磨は、とにかく幅の広い演技で私たちを魅了してくれた。コメディチックなシーンでは、思いっきり三枚目に。しかし、切ない場面では、一気に艶っぽい雰囲気を醸し出す。そのギャップが、千堂八重(長濱ねる)のみならず、視聴者のハートをもがっちり掴んでいたように思う。

 続いて、八重を演じた長濱ねる。八重はあまりにもお人よしすぎるため、一歩間違えればリアリティに欠ける可能性も考えられた。正直、最初の方は「こんなにいい子、いる……?」とどこか遠い世界の話として観ていた部分もあった。しかし、回を重ねるごとに、「本当に、八重みたいな子は実在するのかもしれない」と物語に親近感を持てるようになったのだ。これは、長濱が持つ独特の儚い雰囲気が、八重の性格にマッチしたからこそ。本当に、菊池と長濱だったからこその、匠と八重だったのだと思う。

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