『ウソ婚』すれちがいまくる匠と八重の恋 菊池風磨と長濱ねるの“優しさ”がぶつかり合う
童話『しあわせの王子』に登場する“ツバメ”は、果たして幸せだったのだろうか。自分についている宝石や金ぱくを、貧しい人たちにあげてしまう銅像の王子。ツバメは、冬が来る前に南に渡ろうとしていたのに、王子に頼まれて宝石を配っているうちに、凍え死んでしまう。この物語を、『ウソ婚』(カンテレ・フジテレビ系)の夏目匠(菊池風磨)は、「王子がツバメを巻き込んで死なせたから嫌い」と言っていた。
しかし、ツバメは本当に巻き込まれたのだろうか。王子は、決して無理強いはしていない。逃げようと思えば逃げることもできたはず。それでも、逃げずに手伝いをしたのは、ツバメの意志。自分はいいことをして幸せだった……と思いながら死んだのに、王子がメソメソしていたらツバメは報われない。「自分でこの人生を選んだんだよ!」と思うはずだ。
匠はきっと、千堂八重(長濱ねる)との関係を、王子とツバメにリンクさせてしまっているのだと思う。二木谷ホールディングスとの関係を円滑に進めていくためには、既婚者のふりをしなければならない。そのウソに八重を巻き込み、重荷を背負わせてしまった。優しい八重は、「もう嫌だ」と逃げることができないのではないだろうか? そう思った匠は、彼女の手を離すことにした。
「ツバメにしちゃうとこだった、八重のこと。八重はちゃんと、南に行きな」
筆者はこれまで、“好きな人の幸せを願って手を離す”なんてシチュエーションは、ドラマの世界にだけ存在するものだと思っていた。「リアルな人間は、独占欲が強くて、好きな人を手放すことなんてできないのではないか?」と。しかし、匠の優しい笑みを見ていたら、「そういうことも、リアルにあるのかもしれない」と思えてきた。
この表情は、自分よりもまわりの幸せを願った経験がなければ、出せないものだと思う。きっと、演じている菊池風磨自身が、慈愛に満ちた人なのだろう。彼の内面にある熱い優しさと、長濱ねるが持つ静かな優しさがぶつかり合い、とても引き込まれるシーンに仕上がっていた。