『ムービング』が訴える“普通”からの解放 繰り返し観るほど見つかる自分だけの発見

張り巡らされた伏線

 毎週の配信が待ち遠しくて、各話観終えた後にもう一度第1話から観て驚いた。まるで立派な木のように、一本の真っ直ぐとしたストーリーラインがありながら、左右の枝葉にびっしりと物語と伏線が張り巡らされている本作。何気ない演出やセリフ、意味深なカットなど、全てに意味があると言っても過言ではないほどに細部まで作り込まれている。学級委員長のガンフン(キム・ドフン)が食堂で喧嘩に巻き込まれた時に映る腕の火傷痕や、定住せずに車で父と移動するヒスが幼少期から身につけているカチューシャ、ミヒョンがとんかつソースにリンゴを入れるなど、なぜかリンゴに詳しそうな理由など、後から見返すとその度に新たな発見があるのが面白い。一回では見つけきれないからこそ、何周もして自分だけの発見を見つけ、味わいたくなる作品だ。

新鮮でこだわり抜かれた演出

 まるで各話の表紙かのように、物語のはじめに「ムービング」という文字が映し出される本作。その回が一体どんな内容なのかを一言で表現しており、何パターンもの「ムービング」を見ることができる。ここまでタイトルだけで伝えることができるのか……と毎話痺れてしまい、本編だけでなくタイトルを観るのも楽しみになっていく。そのほかにも、季節感を表現するために、コーヒーの自販機やバス停の柄で間接的に表し続けたり、親世代が恋を深める時のきっかけをコーヒーにしてお茶の時間を印象的かつロマンチックに演出したりと、直接的すぎない演出がオシャレで唸ってしまう。所々に見え隠れする新しさが、視聴者を飽きさせず、一層熱中させてくれているのだろう。

ベテラン俳優陣と若手俳優陣のタッグ

 リュ・スンリョンやチョ・インソン、ハン・ヒョジュなど、次々と登場するキャストの顔ぶれに、なんて豪華なんだ……と思った方もいるはず。ベテラン俳優陣の圧巻の演技やアクションシーンは、本作の面白さとキャラクターへののめり込み具合を一層加速させていく。さらに、彼らの子ども役として登場するのが、若手俳優陣だ。数々の作品で存在感を放ってきたコ・ユンジョンやイ・ジョンハ、キム・ドフンたちの魅力が大爆発しており、『応答せよ』シリーズで若手俳優陣が一層注目を集めたと語り継がれているものに近い人気の勢いを感じる。そして、本当の親子のようなシンクロした演技と、フレッシュさが組み合わさって、一つ一つの家族を推したくなると思う。

 体感速度は一瞬で、自分だけの発見を見つけ意味づけし、考察して楽しみたくなる『ムービング』。一本の骨太な映画を観ているような満足感もあり、ぜひ堪能いただきたい。また、一部キャスト陣が出演している回のあるバラエティ番組『見習い社長の営業日誌2』もおすすめ。セットで視聴することで、ロスが癒される気分になる。

■配信情報
『ムービング』
ディズニープラス スターにて独占配信中
(全20話/初回7話まで一挙配信、8話以降は毎週水曜2話ずつ配信)
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